魏に現れし戦神

□幕間:目覚めた者
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昔、とある山奥の村に、一組の若い夫婦がいた。

決して裕福な生活をしていたわけではないが、二人は幸せに暮らしていた。

そんな二人に、男の子が生まれた。

その男の子は、生後わずか一週間で二足歩行を可能にし、十日で人の言葉を理解、言語を話すようになった。

二人は驚いたが、同時に喜んだ。

自分たちの息子が、いずれ人の役に立ってくれると思って。

だが、幸せは長くは続かなかった。

その子供の存在を知った村の長が、その子供を異端児とし、山に捨てるように言ったのだ。

その村は、長の家系の、いわゆる独裁国家であり、長の言う事には絶対だった。

だが、可愛い我が子を捨てる事に二人は反対し抗議した。

しかし、結局親子は村人の手により引き離され、幼い子供は山に捨てられてしまった。

子供は泣かなかった。

理解していた。

自分がいては、愛すべき両親が、村のみんなからひどい仕打ちをうけてしまうのであろうと。

このまま山で暮らした方がいいのであろうと。

そして、子供は山の奥深くで生きていく事に決めた。

それから十年が過ぎた。

子供は立派に成長していた。

言葉も知恵も、大人とさほど変わらない程になっていた。

そんな時、急に両親に会いたくなった。

村の者も、まさか自分が生きているとは思ってはいまい。

また共に生活しようとも思っていなかった。

ただ、もう一度会って、少し話をしたいと思っただけだった。

そして、彼は山を降りた。

幸い服は以前見つけた布でなんとかなり、体の汚れも川で流したので、そこまで怪しまれそうになかった。

とはいえ村に着いたものの、十年ぶりという事もあって家の場所が分からなかった。

彼は村の人に、両親の友人の子供であると言って、両親の所在を尋ねた。

そして彼は絶望した。

両親は死んでいた。

あの後、山に捨てられた自分を探そうと村を飛び出した二人は、運悪く山賊に遭遇、父はその場で殺され、母は何度も凌辱された後、自ら命を絶ったらしい。

それを聞いた時、彼の精神はズタボロになっていた。

そして、それに追い打ちをかける事実を知らされる。

その二人の遺体は、まともな埋葬もせずに崖から落として捨てられたらしい。

村長の命令も聞けずに村を出て勝手に死んだ者を埋葬などしない、という命令が出たかららしい。

そしてその命令を、村人はなんの疑いもなく実行した、と。






それを聞き、






彼は壊れた。
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