Novel

□0429Day of the blessing
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時事小説になります、人物や事象に関連する記載もありますがフィクションも含まれてます。苦手な方はお逃げ下さい!ちなみに米英も含まれてます。









人間の寿命は、国の長さで換算すれば瞬く間にすぎない。だが、終ることのない生と死のサイクルは、次世代に命という名の襷を渡しイギリスを形成し続ける。
自分たち国にはない生命の神秘。そして、毎日のように生命を授かる国民は、イギリスの愛する子どもに値する。

4月29日、普段から賑やかなロンドンが、さらに活気に溢れる特別な日。イギリスはいつもに増して、しっかりと身なりを整えていた。
今日は、イギリスの歴史に新たな一頁が刻まれるからだ。




0429Day of the blessing










良い意味でも悪い意味でも断ち切ることができない腐れ縁。本人曰く愛の国を招待したことを激しく後悔したのは、寺院での結婚式を無事に終え宮殿に戻ってきた麗しき花嫁にちょっかいをかけた瞬間だった。


「美しい…貴女が王室の花嫁でなかったら連れ去るのに…」

細長い指先にきめ細やかな肌を持つ右手の甲に軽くキスをするフランスに、イギリスは歯軋りをしながら殺傷しかねない視線で睨み付ける。

「ワォ!!それって映画の卒業みたいなんだぞ!!」

加えて自国の青春映画を例に出し、揶揄いながらもこの場に不釣り合いなファーストフードで口の回りをケッチャプ塗れにしているのはアメリカだ。
カナダはそんな二人に挟まれて、羞恥と情けなさで縮こまっている。

「テメェェェ〜〜〜!!!!!誓いを交わしたばっかりの王子の妃を口説くってどんな神経してんだ!!!!アメリカもこんな厳粛な場所でハンバーガー食うんじゃねぇよ!!」

怒鳴り散らされる愛の国と自称ヒーローの国は、互いに視線を交わすと吹き出した。こんな日でもイギリスは変わらない。


結婚式を終え、国民の歓声を浴びながら馬車で宮殿に移動したロイヤルカップルは、小休憩をかねて国々と談笑している。このあとはいよいよ宮殿のバルコニーに立ち、祝福する国民に恒例のキスで応える予定だ。
軽くお色直しをする花嫁の後ろ姿を微笑み混じりで眺めるイギリス。そんなイギリスを眺めながら、フランスはニヤニヤと卑しい笑みを浮かべる。

「本当、坊っちゃんって凶暴なくせして変な所では乙女なんだから…」

ワイングラスを片手に、イギリスに釘付けなアメリカにそっと耳打ちする。
今なら坊っちゃんと結婚できるんじゃない?と



「…何言ってるんだい!!フランスはイギリスがどれだけフラグクラッシャーでネガティブキングか知ってるだろ!?付き合うのだって一苦労だったんだぞ!!」

「それはお前らがツンデレ同士だからだよ。本人がいない所では素直な癖に、本人の前では口喧嘩ばっかり…今日は結婚式でムードも高まってるんだから、少しはお前が大人になれって…甘い言葉でも囁いたらもう坊ちゃんメロメロよ?!」

「……そっ、そんなこと…言えないよ!!」

「お前ねぇ〜こんなチャンスあと何十年はないよ?見逃すなんて正気の沙汰じゃないね〜」

フランスの口車にまんまとのせられたアメリカは、高鳴る鼓動を少しでも和らげるため、煽るようにワインを一気飲みした。確かに今の所、自分たちの仲はとても順調だ。だから、国家同士だって親密な関係が反映されている、それはとても喜ばしいこと。
国として合併するのでなく、あくまでも個人的な絆として、もう二度と繋がれた赤い糸が切れないように。自然にを心掛け、アメリカはロイヤルカップルと楽しげに談笑するイギリスの肩を掴み、強引に自分の方へ向かせた。
突然のアメリカの行動に、イギリスのエメラルドグリーンの瞳が見開かれる。
頬を赤めながら尋常でない緊張感を漂わせたアメリカに圧倒されたのか、イギリスは怒鳴ることもなく伝播するように自身の頬もピンクに染まっていく。

「な…何だよアメリカ……」

「…悪くないね、君んちの結婚式も…ちょっと派手さが足りないけど………あのさ、……俺たちも結婚するかい?」

「……ほぇ…?」

主役のロイヤルカップルを差し置いて、部屋の中央で真っ赤になり固まる二人。そんな二人をフランスとスペイン、プロイセンは笑い転げる寸前の表情で柱の影から見守っている。フランスとアメリカの会話を聞いていたカナダとドイツは、悪趣味過ぎると言いたげな表情だ。
固まった空気を打ち破ったのは、他でもないクィーンと呼ばれる気品のオーラを放つ老婦人だった。
二人のやり取りを、まるで自分の子どものように愛らしい視線で眺めていた女王。ゆっくりと椅子から立ち上がるとイギリスとアメリカの背中を擦り、コロコロと少女のように笑う。

「それは…少し困るわね……ねぇ祖国?」

茹で蛸状態のイギリスは、口をパクパクしながらも声を発することができず涙目でアメリカを睨み上げた。

「ぁ…あ…バッ!バカァ!!!俺に51番目の州になれっていうのかよ!!!!アメリカのバカァーーー!!!!」










彼女のアクアマリンの瞳と、鮮やかなブロンドの髪が好きだった。伯爵家の出身で令嬢であるにも関わらず屈託なく笑う姿が、遠い日の小さな天使に重なったからだ。
燦々と照りつける太陽と、颯爽と吹く心地よい風。宮殿の中庭で走り回る未来の国王に手を振りながら、彼女は優雅にティーカップを持ち上げた。

『聞いてくださる祖国…この前ねあの子ったらママを守るために、警察官になりたいって言ったのよ!』

そう言った彼女は、幸せいっぱいで喜びが満ち溢れていた。

『…そっか……成長してるんだな…あんなに小さかったのに…』

真っ赤な顔で泣いていた赤ん坊は、目まぐるしく成長する。昨日、泣いていたかと思えば今日は二本足で立ち上がるほどのスピードだ。人間の成長は本当に早い。

『楽しみですわ…でもあっという間に大きくなってきっと素敵な女性を連れてくるのでしょうね…』

彼女は少し寂寥感を漂わせながら、ティーカップをソーサーに戻す。今まで手塩に掛けて育て上げてきたからこそ、我が子の独立は喜ばしいことでもあるが、同時に寂しさも出現する。
その気持ちは大いに共感できる、イギリスだって二百年以上たった今でも、あの日を忘れることはできない。

『あぁ…このバルコニーから拍手喝采を浴びて…全国民から祝福される…新たな歴史が刻まれる…』

『私はあの子の一番近くで見守るんです、母として…こんな誇らしいことは有りませんわ…』

まだあどけなさが残る彼女だが、胸を張る姿は偉大な母の貫禄を携えている。

『……嫉妬するなよ』

少し意地悪げに揶揄えば、彼女は愛らしい頬を膨らませた。

『まぁ失礼ですわね!…この婚約指輪が似合うチャーミングで、可憐な愛らしい女性なんですわ…私のようにね!』

イギリスに向けられた左手の薬指。
ダイヤモンドで縁取られたブルーサファイアの宝石が、太陽の光を浴びいっそう華やかに耀く。
まるで童話の中から飛び出したようなお姫様は、幸せいっぱいの笑顔を浮かべていた。










国民の歓声が一段と大きくなる、煽るような拍手喝采に二人はもう一度口付けを交わした。そんな未来永劫、愛を誓い合った二人を見て、イギリスの頬を涙が伝う。

「……慈母だったんだ……誰よりも……一番この光景を見たがってた……」

独り言のようなイギリスの呟きに、アメリカはバルコニーに立つ二人の後ろ姿から視線を戻す。
突然の涙に若干困惑したものの、握り締められる左手の熱さと強さに、イギリスの胸中に滾る思いが以心伝心する。

「………聴こえるか国民の歓びが…見えるか幸せに笑ってる二人が…」

くしゃくしゃになりながら、エメラルドグリーンの瞳は潤み、涙が頬を濡らすがイギリスは微笑んでいる。
アメリカは眉を少し下げると、いつものように濡れた頬を指で抉りながら軽快に笑った。

「君ね…こんな日にまで悲観主義は無いんだぞ!」

「うるせぇな!!感極まってるんだよ!バッ――」

死角である宮殿の柱に凭れたアメリカは、イギリスを覆い隠すように抱き締めた。そして、イギリスの口癖を吸い取るように、唇で塞ぐ。
掠めるような口付けを繰り返し、青空の瞳が大きく開かれ満面の笑顔でアメリカはイギリスに告げた。

「曇りばかりのイギリスが、こんなに晴れてるんだぞ!十分天国にまで見えてるし聴こえてるよ!」


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