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□前
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ロキが現れた瞬間、ターゲットはロキへと移り変わった。人の傷を抉る厄介なこの能力、どうやら扱えるのは奥に居る親玉だけのようだ。そして対象は一人にしか使えない、といったところか。先程より幾分か冷静に拳を振るうセイバーの男を見てロキはそう推測した。

視界にちらつくカレンの幻影が、悲痛な声を出してロキを責めたてる。視覚、聴覚まで左右されるのか。勘弁してくれ。そう思わないでもないが、カナが居合わせなかったことに安堵する余裕もあった。

こんな時こそ無心になれとはよく聞くけれど、そうすれば負けることはロキ自身が一番理解していた。

第一、カレンを前にして無心になるなどロキには土台ムリな話なのだ。襲い来る罪悪感はあの頃と何一つ変わらない。それでも、思うことはあの頃より増えた。罪悪感一つで生きていく道を、そのまま消えゆく願いを、新たなる可能性を導き出すことで閉ざしてくれた女の子の存在が今の僕にはあるのだから。

―――ブロンドの髪の少女が、ロキを静かに抱き締める。温度はない。触感も。これも幻影。全くどこまでも趣味の悪い。

「ねえロキ。あたしはね、あの日のことをずっと後悔してるの。ずっと、ずーっとね」

ルーシィの口が、ルーシィの声でそんなことを紡ぐ。

「だって、貴方みたいな“人殺し”を生かしてしまったんだもの」

―――……まったく、今日は厄日だ。

飛んできたモンスターを遥か後方に蹴り飛ばす。余裕がない。必要以上に力をこめてしまった。

とりあえず早いとこ決着をつけてしまおう。

幻影を振り払うようにグルリと腕を振り回す。もちろんそんな事で消えはしてくれなかったけど、自分の中のスイッチが切り替わったのは分かった。

目も眩むような黄金色の光が、ロキの拳を灯す。カナと仕事に行く際は、いつだって魔導士“ロキ”としての戦法をとっていたけど、今はそれさえも煩わしい。



―――さあ、我らがオーナーを侮辱してくれた罪、一体どうやって晴らしてもらおうか。



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