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□前
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「さあさあ、シケた面してないでアンタ達も呑みなさい」
妖精の尻尾の魔導士、カナ・アルベローナ。見える敵を全てぶちのめした後、合流したローグと共に彼女は居た。とりあえず大まかな事情説明を交わして、麓へと下り、頂く報酬は頂いて、一行は麓の酒場で顔を突き合わせることとなった。…なんとなく酔っ払いに絡まれてる感は否めない。
「その様子じゃそっちが“当たり”だったみたいね」
「大ハズレもいいとこさ」
カナの言葉に、ロキは芝居がかった動作で肩を竦ませる。
カナ・アルベローナについてはスティングの記憶にもきちんとその名が刻み込まれていた。大魔闘演武にて破格の数字を叩き出した異例の女魔導士である。あの時感じた壮大な魔力は今の彼女からは微塵も感じられないが、それでも腕の立つ魔導士であるということは分かる。
「そっちはどうだった?」
「ぜーんぜん。数ばっか多くてやんなっちゃうわよ」
「うん。それより僕のコートが焦げてるのは何でかな?」
「火のカードを使ったらね、ちょっとね、まあよくあることよねー」
「……そうだねー」
…それでいいのかアンタは。
このロキという男、会話から察するに妖精の尻尾の仲間であることは確かなのだろう。が、スティングの記憶にこの男の名は存在しない。大会の出場枠にも入っていなければ、応援席でも奴の姿は見かけなかったように思う。
あまり思い出したいものではないが先程のモンスターの言葉も少し気にかかった。
「どうした、スティング」
「どうかしましたか、スティング君」
「スティング」
訝しむローグと、気遣わしげなレクター、加えて舌っ足らずなフロッシュの声。
「……何かあったんですか?」
「…や、別に」
心配そうに自分を見上げるレクターの頭をクシャクシャと撫でる。
考えても仕方がない。それよりレクターに心配をかけることの方が嫌だ。そう考え直して、気持ちを改める。
「呑め」
ぐいっと、前触れもなく目の前に差し出されたジョッキに思わず身をひいた。
「……なんすか」
「嫌なことがあったら呑んで忘れるに限るわよ、少年」
「いや、オレ少年って言われるような年じゃ…」
「お姉さんの酒が飲めないって言うのぉ?」
「いやいや、ってゆーかオレ酒飲んで記憶とか無くなったりしない質…」
「のーめっ」
メチャクチャ酔っ払いだなアンタ。
それもそうだろう。この店に入ってそれほど時間は経っていないが、彼女の後ろには空となった酒樽がいくつも積み重ねられている。それこそ今日の報酬を全部酒に注ぎ込む気かってほどの。
助けを求めるようにローグに視線を向けると、綺麗に三者揃って目を逸らされた。いきなり薄情だなおまえら!!
「じゃあ、ちょっとだけ…」
「はいはい。ぐいっといきな、イケメンマスター君」
「……なんです、その呼び方」
「最近こっちじゃ有名だよ。若くてカッコいい新マスターってね」
「…へえ」
「何よ、その興味のなっさそーな顔は。ここは喜ぶとこだろー?」
「……酔っ払いの戯れ言として受け取っておきます」
「サラッと失礼ね、アンタ」
「悪気はないんですハイ」
レクター、そんなとこだけフォローはいらない。
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