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酔っ払いが一人増え、二人増え、最早シラフなのは自分とこのネコ二人だけといったこの状況で、ロキは静かにグラスを傾けた。

ロキはあまり酒に強くない。と、自分ではそう思っている。深酒をしたことがないので配分を理解していないだけとも言える。だからこそ普段はあまり酒を口にしない。酒だけにならず人間の娯楽という、煙草や飲食に関してもロキはあまり頓着していなかった。それに反し、魔導士として過ごした3年間を女遊びに費やしていたのだからあまり褒められたものではないけれど。まあソレを娯楽と称すには些か複雑な事情が絡んでいたが。

とにかくそんな事を考えてしまうくらいにロキはこの収集のつかない事態に心底困り果てていた。

「だからさー私はねーその時に言ってやったのよー」
「心配すんなとは言わねーけどさ、ユキノのあれは行き過ぎだろ!?」
「フロッシュが…フロッシュ…」
「評議員なんてクソくらえー!!」
「あー!気にいらねー!!!」
「フロッシュ…!フロッシュー!!」

うん、なんだこのカオス。

帰りたいなー帰っちゃダメかなーダメだよなー。うん、でもやっぱり帰りたいなー。思考のエンドレスループ。

「君達のパートナー、すっごく出来上がっちゃってるけどアレって通常運転?」
「……まあ普段とあんまり変わらないっちゃ変わりませんかねーハイ」
「フローもそーもう」
「え。うっそ」

軽く冗談だったんだけど。というか多少の皮肉も入ってたんだけど。まさかの肯定にうんざりだよ。

特にスティングというこの男。愚痴の中に時々ノロケを織り交ぜるので聞いているこちらとしては非常に腹立たしいことこの上ない。こっちは今すぐルーシィのところへ帰りたいのを我慢しているというのに。

…あーそういえば最近ルーシィと会ってない気がするなぁ。

大魔闘演武に於いてフェアリーテイルの名はフィオーレ全体に響き渡った。その中でもナツ、エルザ、グレイ、ガジルなどは格段に仕事の依頼が増えたと言う。それは例に漏れず、ロキのパートナーであるカナにも降りかかった。名指しで送られる仕事の依頼に日夜駆け回る日々。それを勿論ロキが放っておける筈もなく、気付けばここ最近は魔導士としての仕事に明け暮れる日々が続いていた。何日、ルーシィに会えていないのかと、最早数えるのも億劫である。

ルーシィ、怒ってるかなぁ。

目まぐるしく回る日々に正直ロキも疲れ果てていた。そうしてルーシィへの連絡を怠ってしまっていたのである。ぶっちゃけ怒っていない方がおかしい。

仕事は出来ているだろうか。最近のロキは人間界にその身を置いて生活している。続く仕事の疲れを癒やすにはこちらの方が効率がいいと考えての結論だ。星霊界へ帰れば生命力は回復し、疲労や軽い怪我なら一瞬で回復してしまう。勿論それは利点であるが一つだけ最大級の欠点がある。それは人間界と星霊界に流れる時間の差。回復を終えたとしても休養時間は皆無と言っていい。疲労の回復に於いて最も重要なのは睡眠だ。と、ロキは思っている。死の概念がない星霊にとってソレを欠いたところで特に問題も無いのだが、3年も人間界の空気に触れ続けたロキは生活習慣も人間のそれに近いものとなった。

つまるところ睡眠が好きだ。昼寝大好き。ネコ科とかそういうのは関係なく。ってゆーか僕、獅子宮だし。その星の守護を受けているだけで僕自身が獅子なわけではないし。もちろん中にはタウロスのように名を身体に表す星霊も居るけど僕関係ないし。なんだか最近髪がネコ耳っぽくなってるけどあれって別に必要なくね?だって僕、人間の耳あるじゃん。耳4つって何だよどこの妖怪だよとか思ってる僕っておかしい?僕がおかしいの!?

……話が逸れた。

兎にも角にも帰ったらとりあえずルーシィのご機嫌とりだ。僕が外に出ている間、彼女が特に問題なく過ごせているのは事実だと思う。異変があったならばバルゴが知らせに来るはずだ。ちょっと癖はあるが(おまえが言うな)優秀な子だ。状況を見て自分の判断が下せるバルゴをロキも重宝している。彼女がルーシィの星霊で良かったと思える程に。

長く人間界に常駐するに於いて、一時的にルーシィとの契約を切ろうかと考えなかったわけではない。彼女の魔力も格段に上がっているとはいえ、やはり心配なものは心配だ。一時的な契約破棄であるならばロキの意志一つで簡単に為すことが出来る。これには当時ロキも驚いたものだ。永久的契約破棄ならばもちろん両者の許可が必要だ。それは言うまでもない。だがそれがどんなに短い期間であるとはいえ星霊が星霊の意志で契約を破棄するなど言語道断、前代未聞である。出来ちゃったんだから仕方ないよねー、とは言ったものの流石のロキもやってしまった後に目を剥いた。そしてちょっとだけ焦った。こんな事が出来るならあの時、カレンとそうしていたはずだ。自分はいいとしても、アリエスにはそれをさせていたはずである。だが当時はこんなこと出来なかった。あの時だから出来なかったのか、今だから出来るのか。長く人間界に居た経験がそうさせたのか。多分どれも関係ない。―――ルーシィだからだ。彼女が、僕の、星霊の意志を尊重しているから出来た事実なのである。それに気付いた時、ロキは少しだけ泣いた。そして彼女の星霊になれたことを誇った。グレイとの約束を果たした後、必ず彼女のもとへ戻ろうと、強くそう思わせた。

僕が帰る場所は、たった一つだ。

それは、魔導士である“ロキ”にもそう言える。だが、実質ロキは星霊としての責務をあまり全う出来ていない。今だってこうしてカナとの仕事に明け暮れている。それは、ある種の劣等感に近いのだと思う。星霊“レオ”としてのロキは誰より“所有者ルーシィ”の近くに居ると自負している。だが魔導士としての“ロキ”は違う。仲間としての距離は、酷く遠い。それはロキが勝手にそう位置付けているだけに他ならず、敢えて言うならばナツ達があまりにも近過ぎるのだ。比べるのもおこがましいと思える程に。

その時、ふと視線を感じた。

顔を上げれば、深い藍の瞳と視線が交わる。

「…何」
「いや……アンタって…」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「…男と見つめ合う趣味はないんだけど」
「オレだってねーよ!!!」

スティングの発した大声に、テーブルの上で眠っていたフロッシュがむずがった。よくよく周りを見渡せば自分とスティング以外の者は皆潰れていた。え待って、カナ潰れてる?どんだけ呑んだのこの子。

「あー……アンタってさ、雑誌とか出てたことあるか?」
「雑誌?」
「…ソーサラーとか」
「ああ、あるね。7年前までだけど」
「だーよなー!?」

あースッキリしたーなんて一人納得したように頷くスティング。

ロキとしては酷く懐かしい話題を出された気分である。嘗ては“彼氏にしたい魔導士〜”なんて煽り文句をつけて誌面に飾られたこともあったっけ…。この7年の間にランキングトップを飾るのはヒビキとなってしまったようだけど、今のロキにはあまり興味のないことであった。



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