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「アンタさぁ、なんで大会出てなかったわけ?」
「……いきなり話飛んだね」
「だってなんか気になんじゃん」
「…そもそも僕の意志一つで出場が決まるものじゃないだろ」
「それはそうだけど、アンタ応援席にも居なかったろ?」
「………よく見てるね」
「当然」

何故、と聞かれると酷く返答に困る。出場したかったかと問われるとそうでもないが、先に言った通りそれは僕の意志一つで決められるものではない。

「……僕の主人は…ああいった公の場で僕を使うことは無いよ」
「は?」
「ま、本人は殆ど無自覚なんだろうけど」

溜め息混じりにぬるくなった酒を呷る。たまに呑む分には構わないけれど、これを毎日呑むカナの気持ちを自分は理解出来そうにない。

「…どーゆー……」
「あれ。まだ気付かない?」

挑発的なロキの言葉に、スティングはぐっと眉を顰める。

「君にとっても僕はそう縁遠い存在じゃないと思うんだけど」
「はあ?」
「ユキノ。……大切な人なんだろう?」

そこで漸く合点がいったのか、吐き出された長い溜め息にロキは意識して満面の笑みを浮かべた。少しだけ、否定の言葉が返ってこなかったのを意外に思いながら。

「…アンタ、星霊か」
「ごめいとおー。いやあ、でも意外だなぁ。てっきり真っ赤になって否定すると思ったのに」
「………バレバレの嘘つくほどガキじゃねーよ」

そりゃまあ良い心掛けで。

「青春だねぇ」
「うぜぇ」

鋭い眼光で睨まれて、肩を竦める。酒に呑まれていた先程の彼からは想像もつかない豹変っぷりだ。

好きな女の子が出来てしまうとナツもこのように感情的になることがあるのだろうか。いや、ナツはいつだって直情的だけれど、こと恋愛に関しては年齢にそぐわない鈍感さを見せる。そのくせ全く下心がないわけでもないのだから、厄介この上ない。

「………アンタ達、星霊ってさ」
「ん?」
「人間に恋愛感情とか持ったりすんの?」
「……………」

何も口にしていなくて良かった。そうすれば確実に吹いていた自信がある。

「…………そういうケースは滅多に聞かないけど、一概に無いとも言い切れないんじゃないかな」

星霊といっても色々だ。所有者に対し絶対的な忠誠を誓う者、人間を愚かな種族とする者、規則に忠実で義務的に人間に仕える者、皆思うことは様々である。

「で、アンタは好きなわけだ、人間を」
「………僕、何も言ってないんだけど」
「それだけ動揺しといてよく言うぜ」

顔に出ていたことが恥ずかしくて、グラスの中の酒を一気に飲み干す。手持ち無沙汰となったロキは、カナの飲みかけの酒瓶から新しくグラスに注いだ。そしてまた呷る。…………キツい。酒豪のカナが口にする酒だ。当前である。

「相手はそこで潰れてるカナさん?」
「…………冗談でもやめてくれない?ギルダーツに殺される」
「じゃあ誰」
「君、さっきから質問多いね」
「純粋な好奇心と興味と、さっきの仕返し」

おまけに素直だ。もちろん悪い意味での。

「敬愛すべき僕のオーナー以外に有り得ないと思うけど?」

酔いが回ったのか。普段は内に隠しているはずの本心がポロリと口から零れ出る。冗談めかして口説くことはあっても、こんな風に関係のない第三者に気持ちを語るなんて事、今までに無かった。

「それって妖精の星霊魔導士だよな?」
「ルーシィね」
「……ふぅん」

面白くない、とその顔が物語っていた。ピスケスなんかは人型にもなれるし、やはりこういう話を聞くと不安に思ったりするのだろうか。まあ彼の場合はこの話をするまでもなく星霊に妬いていたようだけど。

「僕ら星霊に妬いても仕方ないと思うんだけど…」
「お前らだから嫌なんだよ」

―――そこらの男なんかより、よっぽど強敵。

付け足された言葉にロキはパチクリと瞬きをした。



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