short

□甘党
2ページ/3ページ




「…僕、いつから寝てた?」
「えっと……、30分くらい前」
「そっか。びっくり。爆睡してた」

それだけ気を抜いているということである。勿論、悪い意味ではなく。

「僕、普通に座ってたよね?」
「え、あ…」
「膝枕、ルーシィがしてくれたの?」
「う…」
「凄いね、全然気付かなかった」

返事を待たず、表情だけで答えを導くロキに、ルーシィは恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。膝枕はもちろんのこと、当たり前のように自分を理解してくれるロキにも。

「……僕とカナが、付き合ってるかもとか思ったの?」

―――きた!!

かあっと頬に熱が集まるのを感じながら、静かに頷く。

「うーん。こう言ったら失礼かもしれないけど、それは有り得ないよ」
「な、なんでよ」

絶対なんて言い切れないではないか。カナは女で、ロキは男…、なのだから。

泊まりの仕事がある度に、いつも不安に思ってしまう。それとも、そんな風に考える自分が不純なのだろうか。う、嫌だなそれは。

「うまく説明出来ないんだけど…。……あ。例えば、ルーシィはハッピーと付き合えるって思う?」
「はあ!?ハッピーは猫よ!?」
「うん。それと同じ。カナはコンビで、仲間だし、そういう風には見られない。多分それはカナも一緒だ」

あっけらかんと、そう言ってのけるロキに、開いた口が塞がらない。

要するにロキにとってのカナは猫ちゃん、ということだろうか。逆もまた然り。

そして、少しだけ脱力した。少なくとも、その口から“星霊だから、人間だから”そんな言葉が紡がれなかったことに安堵する。

「まあでも、あんな風にカナが考えてたっていうのは意外かな」

ポリポリと頬をかきながら、よっと上体を起こすロキ。正直、膝枕という抗い難い魅力から離れるのは口惜しいけれど、これ以上は癖になってしまいそうなので危険だ。

「あー…、そうでもないか。ああ見えてカナって一人で抱え込んじゃうタイプだし」
「…………」
「…………」
「…………」
「ねえ、ルーシィ」
「……何よ」
「さっきから思ってたんだけど、もしかして妬いてる?」
「んな!!」

ボッと、本当に火がついたのかと錯覚するくらい、その頬が朱色に染まる。

(…うわー、どうしてくれよう)

若干、危険思考に陥りながら、可愛らしい己のオーナーの反応を心行くまで堪能する。

「そ、そそそんなワケないでしょ、もおお!強制へぃ」

言い終わる前に、ロキの人差し指がそれを塞いだ。

「余計な魔力は使わない方がいい」

だって、ロキは今、自分の魔力でここにいるのだから。

そして、素直に強制閉門に応えてやれる程、今のロキは優しくない。

「ねえ、ルーシィ。妬いてたんだろ?」

ぞくりと、背中に戦慄が走る。

聴く者の力を奪ってしまうような、低く甘い声音。

(こここの女ったらしが…!)

もちろん心の中で罵声を発することは忘れることなく、ルーシィは目の前のロキを睨んだ。

恥ずかしくて、消えてしまいたいくらい恥ずかしいのに、この男は逃がすつもりなんて1ミクロンもないのだ。

「しっ」
「ん?」
「知らない!!」

それが、今ルーシィに出来る精一杯の抵抗だ。

くすりと、隣でロキが笑う気配がする。

逃げたい消えたい逃げたい消えたい逃げたい消えたい。

呪詛のようにその言葉を頭の中で繰り返しながら、テーブルの上に伏せる。ふわりと、ロキの吐息がルーシィの首筋をくすぐった。触れるか、触れないかの、ギリギリの距離感。

「ねえルーシィ。僕の恋愛対象はいつだって……」

甘い、甘い、甘い、甘い。

どこまでも甘い囁き。続く言葉を、ルーシィは高鳴る胸を抑えながら待った。



【END】
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ