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□甘党
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「…僕、いつから寝てた?」
「えっと……、30分くらい前」
「そっか。びっくり。爆睡してた」
それだけ気を抜いているということである。勿論、悪い意味ではなく。
「僕、普通に座ってたよね?」
「え、あ…」
「膝枕、ルーシィがしてくれたの?」
「う…」
「凄いね、全然気付かなかった」
返事を待たず、表情だけで答えを導くロキに、ルーシィは恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。膝枕はもちろんのこと、当たり前のように自分を理解してくれるロキにも。
「……僕とカナが、付き合ってるかもとか思ったの?」
―――きた!!
かあっと頬に熱が集まるのを感じながら、静かに頷く。
「うーん。こう言ったら失礼かもしれないけど、それは有り得ないよ」
「な、なんでよ」
絶対なんて言い切れないではないか。カナは女で、ロキは男…、なのだから。
泊まりの仕事がある度に、いつも不安に思ってしまう。それとも、そんな風に考える自分が不純なのだろうか。う、嫌だなそれは。
「うまく説明出来ないんだけど…。……あ。例えば、ルーシィはハッピーと付き合えるって思う?」
「はあ!?ハッピーは猫よ!?」
「うん。それと同じ。カナはコンビで、仲間だし、そういう風には見られない。多分それはカナも一緒だ」
あっけらかんと、そう言ってのけるロキに、開いた口が塞がらない。
要するにロキにとってのカナは猫ちゃん、ということだろうか。逆もまた然り。
そして、少しだけ脱力した。少なくとも、その口から“星霊だから、人間だから”そんな言葉が紡がれなかったことに安堵する。
「まあでも、あんな風にカナが考えてたっていうのは意外かな」
ポリポリと頬をかきながら、よっと上体を起こすロキ。正直、膝枕という抗い難い魅力から離れるのは口惜しいけれど、これ以上は癖になってしまいそうなので危険だ。
「あー…、そうでもないか。ああ見えてカナって一人で抱え込んじゃうタイプだし」
「…………」
「…………」
「…………」
「ねえ、ルーシィ」
「……何よ」
「さっきから思ってたんだけど、もしかして妬いてる?」
「んな!!」
ボッと、本当に火がついたのかと錯覚するくらい、その頬が朱色に染まる。
(…うわー、どうしてくれよう)
若干、危険思考に陥りながら、可愛らしい己のオーナーの反応を心行くまで堪能する。
「そ、そそそんなワケないでしょ、もおお!強制へぃ」
言い終わる前に、ロキの人差し指がそれを塞いだ。
「余計な魔力は使わない方がいい」
だって、ロキは今、自分の魔力でここにいるのだから。
そして、素直に強制閉門に応えてやれる程、今のロキは優しくない。
「ねえ、ルーシィ。妬いてたんだろ?」
ぞくりと、背中に戦慄が走る。
聴く者の力を奪ってしまうような、低く甘い声音。
(こここの女ったらしが…!)
もちろん心の中で罵声を発することは忘れることなく、ルーシィは目の前のロキを睨んだ。
恥ずかしくて、消えてしまいたいくらい恥ずかしいのに、この男は逃がすつもりなんて1ミクロンもないのだ。
「しっ」
「ん?」
「知らない!!」
それが、今ルーシィに出来る精一杯の抵抗だ。
くすりと、隣でロキが笑う気配がする。
逃げたい消えたい逃げたい消えたい逃げたい消えたい。
呪詛のようにその言葉を頭の中で繰り返しながら、テーブルの上に伏せる。ふわりと、ロキの吐息がルーシィの首筋をくすぐった。触れるか、触れないかの、ギリギリの距離感。
「ねえルーシィ。僕の恋愛対象はいつだって……」
甘い、甘い、甘い、甘い。
どこまでも甘い囁き。続く言葉を、ルーシィは高鳴る胸を抑えながら待った。
【END】