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□パーティーの後は
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※王室パーティーでの軽いネタバレと多大なる捏造を含みます。アニメ放送された記念にうp。DVD派の方はブラウザバック推奨。









「これからは、仲間を大切にするギルドにしたい」

なんて嘘臭い言葉だと、彼女は思っただろうか。

戸惑いに揺れる榛色の瞳が、自分を遠慮がちに見上げる。彼女の瞳がヘーゼルであったことさえ、今の今まで知らなかった自分に反吐が出た。

思い出すのは、過去の自分。そして、セイバートゥースに入ってきたばかりの頃の彼女の姿。期待と、羨望と、緊張。様々な感情を乗せて、やってきたユキノは、この世の醜さなんて見たこともないのだろうと思えるくらいに輝いていた。

穏やかで誠実で気の利く彼女に殊更懐いていたのはフロッシュである。そこを通じて、レクターもよく彼女と話をしていた。

―――コロコロと鈴を鳴らしたように笑う女だった。あの頃の彼女は、確かに笑っていたのである。

レクターを通じて、彼女がオレに話し掛けた時、オレはなんと返しただろうか。酷く無関心で、冷たい言葉を吐いたように思う。だって、興味が無かった。そんな言葉で片付けられるくらい、オレにとってのユキノは取るに足らない存在だったのだ。

 周りの虫ケラなど見るな
 口を利くな
 踏み潰してやれ

マスタージエンマの教訓は、気付かない内にオレを歪め、心の内に深く根付いていた。

それを後悔するなど、そんな自分に嫌悪する日がくるなど、その時のオレは微塵も思っていなかったのだ。

だから。

「ほら、ユキノ」

柔らかなソプラノの声に押されて、ユキノがオレの前へと一歩踏み出す。周りは既に乱闘騒ぎ。豪勢な料理も、派手な城の内装も、何もかもがメチャクチャで、それでも皆楽しそうに笑っている。虎も、妖精も、人魚も、ケルベロスも、天馬も、みんなみんな笑ってる。

「あ、あの」

震える声に、意識をそちらに向ける。赤い目元に涙の痕を見つけて、思わず手が伸びそうになった。

……何やってんだか。

そんな自分に呆れて、彼女の言葉を待つ。

「私、わたくし…、その」
「うん」
「セイバートゥースに…」
「うん」
「剣咬の虎、に、戻っても、…、いい…ですか?」

緊張に、震えた声。不安と、畏怖と、少しの期待。

想像とあまりにもかけ離れた彼女の言葉に、咄嗟に応えられなかったオレの気持ちを誰かくんでほしい。

少しだけ離れた場所、ユキノの背中を押したソプラノの声の持ち主が、ユキノと同じ艶やかな銀の髪を揺らし、澄んだ海の瞳で此方を見守っている。―――彼女の名前は、聞き覚えがあった。魔人という異名を持ちながら卓越した戦闘力を誇るフェアリーテイルのS級魔導士。彼女の名を知らぬ者など、あの時代に存在しなかったであろう。理由も公表せず引退を決め、天狼島で7年のブランクを持ちながら見事大会出場を勝ち取った復帰組。オレが彼女について知る情報はそのくらい。それが何故か、ユキノを伴ってこのパーティーに出席した。どんな経緯があってフェアリーテイルと行動を共にしていたかは分からない。彼女を見捨てたオレにそんな事は知る由もない。

だけど、分かったんだ。―――ユキノがどれだけ彼女を尊敬しているか。彼女がどれだけ、ユキノを大切に思っているか。今だって柔らかな眼差しでユキノの背中を見守っている。きっと、ここに来るまでもその暖かな包容力で彼女を守り導いてきたのだろう。

だから、だから…。

「……のか?」
「え?」

自己満足だったって言ったら、コイツは怒るだろうか。

謝罪も、戻ってきてほしい気持ちも、決して嘘ではない。だけど、戻ってきてくれる可能性なんて1%も考えてなかった。だって、普通はそうだろう?コイツの目の前には本当の家族のように受け止めてくれるギルドがあって、それなのに、なんでよりによって嫌な思い出を植え付けたセイバートゥースにって、普通は思うじゃん。

オレはただ、許されたくて、許されたいと思う自分にすら嫌悪して、それでも言わずにいられなかった、本当にただの自己満足でしかなかったソレを。

「…本当に、うちでいいのか?嫌じゃねえのか?」

怖く、ないのか?

―――全てを受け入れようとするコイツを前に、思わず後込みをしてしまうなんて。

だって、信じられないんだ。ハッキリ言うと、馬鹿なんじゃねぇのコイツって思う。

おまえにはたくさんの選択肢があって、そのどれを選ぶのもおまえの自由で、なのにコイツは目の前の光り輝く道の中からたった一つ、汚れたオレの手を取ろうとしている。

……なんだコレ。ざわざわ、する。なんか、前にもあったなこーゆーの。



幼い頃の記憶。忘れられるはずもない暖かな記憶。赤毛の小さな喋る猫が、まんまるな瞳から幾筋もの涙を流してオレに頭を下げる。

  「おまえ…オレが怖くねぇのか」

  「怖くないです!僕は強くなりたいんです!」

いつだって、オレに向けられる視線は嫌悪や畏怖のものばかりであった。それなのに、必死に食らいついてくる小さな生き物に、オレは確かに救われたんだ。



(あん時とおんなじだ…)

本当は怖いんだろ?知ってるよ。でもオレは単純だから、それ以上に嬉しかったんだ。自分と共に居てくれる存在を、撥ねつけることなんて出来るはずもなかったんだよ。

(オレ、本当に進歩してねぇな…)

だから、さ……なんだかんだ言って本当はすっげー嬉しい。不安なんだろ?本当はフェアリーテイルに……、ミラジェーンに凄く凄く惹かれてるんだろ?見れば分かるよ。分かるけど、愚かな彼女は剣咬の虎で新たな希望を見いだしている。自己満足で放ったオレの言葉を信じ、受け入れようとしてくれている。

「新しいセイバートゥースで、私もやり直したいんです」

自分の中の不安や恐怖心と戦いながら、赤く腫れた彼女の目が自分を見上げる。……ああ、オレはもう昔からこの目に弱いんだ。

多分きっと、オレはこいつに二度と頭が上がらない。―――自分に出来る精一杯の愛情を以てコイツに接していくのだろうとこの時確信した。

ほら、あの時とおんなじ真ん丸い目が涙に濡れてるんだから。生憎、その目の持ち主は赤毛でもなければネコでもないけれど。

「歓迎するよ」

コイツに向けた初めての笑顔は、多分きっと…だらしないくらいに緩んでいたと思う。



*end*
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