short
□愛されて幸せ
1ページ/4ページ
怪我をしてしまった。
両の掌をじっと見つめて、ユキノは思った。
別に大した怪我などではない。モンスター退治のクエスト中、衝撃に受け身をとった際、掌を擦りむいてしまっただけの話だ。これくらいの傷、討伐クエストにはご愛嬌というものだろう。
だけど彼はどうだろうか。
単独行動はなるべくするな。クエストは誰かとチームを組んで行け。散々、口を酸っぱくして言われてきた。
だけど今回、ユキノはその言い付けを守らずに単体で仕事に向かった。
反抗心があったわけではない。ただ、本当になんとなく…。ここ最近は優秀な人ばかりとクエストに行っていたから、出番の減った星霊達がフラストレーションを起こしていたのも起因だ。ライブラはそうでもないが、ピスケスなどはなかなかに好戦的である。
怒る、だろうか。それとも、呆れるのだろうか。
こんな傷、なんてことはない。だけど、彼の瞳が怒りに滲む様はあまり見たいものではなかった。冷たい鋭利な刃物のような彼の瞳など、もう思い出したいものではない。
「…おい」
ビクリと、肩が跳ねる。
恐れていた、そして望んでいたその声が、すぐ目の前から落ちてきた。
心の準備など出来ていない。それより何より彼は今、定例会のはずである。
「お、おかえりなさい、スティング様」
「……多分それオレの台詞」
顔を上げた先に居たのは、やっぱりその人であった。
.