short

□一ヶ月
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「てっめオルガ!まぁた任務中に派手に暴れやがって!!民間人とお上からの苦情を聞くのはオレなんだぞ分かってんのかよ!!」
「あー?うるせぇなー、細けーことをブチブチと」
「おまえ最近仕事が雑なんだよオレを舐めてんだろ舐めてるよな!?」
「その通りですけど何かー?」
「よっしおまえにはもう二度とレクターと遊ばせてやらねえ!!!」
「あ!それは今関係ねぇだろうが!!」
「知るかバーカ!!!」

ギャイギャイとギルドのド真ん中で繰り広げられるやり取りに、ローグは頭が痛いと言わんばかりにこめかみを抑えた。

「子どもか」
「というかボクの意見は丸無視ですか」
「フローもそーもう」
「スティング様のお気持ちも分からなくはありませんけど」

溜まりに溜まった始末書を前にして、ユキノは困ったように笑う。忙しい定例会を終えて帰ってみればこの現状だ。お気持ちは痛いほどに察する。

次の瞬間ぐっと肩に加わる重みにユキノは思わずたたらを踏んだ。それが慣れ親しんだ重みだと気付いてすぐに口角を上げる。

「もーあいつやだ。破門にしてやろうか、んっとに」
「心にもないことを言ってはいけませんよ、スティング様」
「だってすっげー腹立つ」

本当に子どもみたいなことを言う。クスクスと笑いながらユキノは逆立った彼の髪を後ろ手で撫でた。

「お疲れ様です」
「……ん」

途端に、先程までスティングの周りを覆っていた怒りのオーラが霧散する。

「流石だな」
「流石ですね」
「フローもそーもう」
「おまえらうるせえ」

収まったはずの怒りを再び溢れさせながら、スティングは三者を睨んだ。腕の中のユキノはきっと何も気付いてはいないのだろう。瞬きをする度に、白い睫がパチパチと音を奏でる。

「おまえらはくたびれて帰ってきたマスターを労ろうとかいう気はないわけ?」
「お疲れだなマスター」
「お疲れ様ですマスタースティング」
「おつかれー」
「調子いいなおまえら」

そんでさっきから何でこんな息ピッタリなんだよこいつら。

なんとなく釈然としない気持ちで執務室へと足を向ける。とりあえず書類を片付けなければいけない。こうしている今も刻一刻と時間は過ぎ去っているのだ。

去り際にチラリとフロッシュの顔を窺う。その顔は嬉しそうに己の相棒を見上げていた。ローグも、フロッシュにしか見せない顔で穏やかに笑っている。

そんな一人と一匹の様子に知らず笑みを湛えて、こんな日がこれから先も続くことをひっそりと願った。





時は8月7日。運命の日から1ヶ月の時を経た今、アクノロギアの行方は未だ掴めず―――。



*end*
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