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□自分本位な恋愛感情
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不機嫌そうな彼を見て、どうしたのだろうと首を傾げる。声をかけたら迷惑だろうか。そんなことを考えて、話しかける度胸も無いくせに、と、自分を窘める。いつからか、彼の目を見て話すことが出来なくなった。彼を前にすると、緊張に体を強張らせてしまう。遠目に彼の様子を窺って、そんな自分に自己嫌悪。そんな自分が、とても嫌い。

自分は、とても単純な生き物だと思う。

ナツ様が好き。それは、姉以外の人間で、初めて優しい言葉をかけてくれた人だから。

ルーシィ様が好き。彼女の星霊に対する想いに、尊敬の念を覚えた。私の鍵を託してもいいと、そう思わせてくれた人。

ミラジェーン様が好き。あの方に関しては、言葉に表すことは酷く難しい。私を見て、実の妹に似ていると言ってくれた。柔らかな笑顔。穏やかな雰囲気。暖かく包み込んでくれた腕。動けなかった、動くことを放棄してしまった私を立ち上がらせてくれたお人。

フェアリーテイルが好き。マーメイドヒールが好き。ブルーペガサスが好き。ラミアスケイルが好き。クワトロケルベロスが好き。―――セイバートゥースが好き。
行き場の無い私に、道を与えてくれた人達が好き。

星霊が好き。そして、姉さんが好き。姉さんが大好き。彼女だけは、どうやったって切り離して考えることなど出来ない、私の核ともなる人物だ。

そこに、私の特別とも言える場所に、侵入してきた人物が居る。姉に向ける好意とはまったく違った、それなのに私の心の奥底にドスンと居座ってしまった人。

笑った顔が好き。彼の日溜まりみたいな笑顔を見ていると、知らず知らず私の顔にも笑みが浮かぶの。私をまっすぐ映してくれる空色の瞳が好き。びっくりするくらい優しい手が好き。大雑把に見えて、私に触れる手はとても繊細だ。大切にされている実感を伴う彼の手が大好き。

彼への好きを数える度に、キュッと心臓が縮むような感覚を覚える。彼の笑顔が好きなのに、最近の私はそれを一向に目にしていない。彼の瞳が好きなのに、まともに彼を見ることさえ出来ない。自分という人間には本当に失望する。

“好き”って、たった一言が言えないなんて、そんなのって可笑しい。好意を持った人間には、好意で表すものでしょう?それなのに、今の私が出来るのは遠目に彼の様子を窺うだけ。好きだって、その気持ちを自覚する前の方がよっぽど彼に対し好意的だったように思う。

ルーファス様と話し込むスティング様の背中を、ぼうっと眺めた。時々垣間見える彼の横顔はやはりどこか不機嫌で、レクター様なら何か知っているだろうかと首を傾げる。生憎、彼は現在フロッシュ様とお出かけ中だが。

ドキリと心臓が跳ねる。不意に振り返ったルーファス様と視線が絡んで、その口元が意味深に弧を描く。その笑みが、私の全てを見透かしているようで。

「っ…」

頬が熱い。スティング様が振り返る気配を感じて、視線を前方に戻す。依頼書に目を向けていたローグ様が不思議そうに首を傾げた。

「どうした?」
「な、なんでもないです」

嘘ばっかり。

ドキドキと騒がしい胸を抑えて、曖昧に笑みを浮かべる。

このままじゃ、駄目…。

そう思うのに、行動に移せない自分に呆れ深々と溜め息をついた。



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