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いつでも傍に居るのが当たり前、なんてどこぞの少女マンガのようなフレーズを思い浮かべながらザクザクと荒い雪道を突き進む。膝下まで積もった雪がスティングの身体を凍えさせた。こりゃあユキノは来なくて正解だったかもな。そう思った次の瞬間には、共に来なかったユキノに対して不満の言葉が湧いてくる。

「つーかさみィ超さみィ。どこもかしこも真っ白だしこんな積もってる割にお天道様はドッピーカンだしイライラするしユキノ居ねーし誰だよこんなとこに来たいつったのは」
「おまえだ」
「スティング君ですねハイ」
「フローもそーもう」

異口同音、三方向から飛んできた容赦のない突っ込み(と言う名の事実)に唇を尖らせる。

―――山頂付近に潜むモンスターの討伐。それが今回、スティングが選んだクエストだ。とにかく暴れたいのだろうというのが瞬時に分かる選択である。そうしていざ行かんという時、今回のクエストをユキノは辞退したのだ。辞退も何も仕事に行くのを決めたのはスティングであり彼女がそれに付き合わなければいけない謂われは微塵もないのだが、それを不満に思うくらい彼女と共に居る時間がスティングの中では“当たり前”となっていた。

チョコチョコと自分の後ろをついて歩いていた女が居ないというだけでこの苛立ち。自分でもどうかと思う。そして、その理由に至る経緯が彼女の契約する星霊にあるのだ。―――天秤宮のライブラ。それがどうやら前回のクエストの最中に負傷してしまったらしい。ピスケスの援護により傷はそう深くなかったが、それからユキノは心ここにあらずといった状態で鍵を眺めることが多くなった。傷はもう治ったと言う。それでも休養の意味で暇を与えたいのだと、苦笑混じりにそう語っていたユキノを思い出す。そうしてスティングは苛立ってしまうのだ。

分かっている。彼女にとっての星霊が、自分にとってのレクターと同義であることくらい。分かっている。心優しい彼女がそれを心配せずにいられないことくらい。分かっている、が、不満なものは不満なのだ。星霊に心を砕くのもいいが、それにばかり気を取られるのは非常に面白くない。



―――風が、吹く。空気の流れが変わった。

ピクリと眉を顰めて頂きを仰ぐ。

「お出ましだ」
「レクター、フロッシュ。離れていろ」
「ハイ!」
「フローも」



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