□天縁
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「質問してもいいかしら?」
「なんでしょう?」
「この状況について。」
1998年 六軒島。
傍には、霞とその護衛達の亡骸。
それから、天草が縁寿に銃を突きつけていた。
「俺が。お嬢を。撃とうとしてるだけですよ。」
「私を殺すの?」
「ハイ。」
その返答に躊躇がなく、誰かの命令だろうと思った。
「それは、絵羽叔母さんの遺言?」
「イイエ。俺の独断です。」
「それならなんで殺さなかったの?私を殺せるチャンスはいくらでもあった。」
縁寿は疑問をぶつけた。確かに、縁寿を殺せる場面は沢山あった。
それに、こんな孤島で天草だけが生き残っていたら、確実に犯人扱い。
「いえ、少し前に読んだ本にこんな一文がありましてね。
“サヨナラの挨拶をして、それから殺してくださるものよ”って。」
「坂口安吾ね。」
「おや、お嬢も読んでましたか。」
「つまり、これがサヨナラの挨拶ってワケ?」
「俺は愛の言葉でもいいんですが。ほら、あったでしょう?」
縁寿は次に来る言葉を理解したのか、同時に言った。
「「好きなものは 呪うか 殺すか 争うかしなければならないのよ」」
「だから私を殺すの?それって、天草。私のことが心から好きってコト?」
縁寿は厭らしく笑いながら天草を見た。
「はい、だってそうじゃなきゃわざわざこんな所まで来て殺しませんよ。
その辺のホテルで霞達が来るのを待って殺せば問題ナシです。」
「まぁそれもそうね。それで?一体私にどんな愛の言葉を囁いてくれるの?」
銃を突きつけられているのを忘れたように楽しそうに笑った。
「そうですね。口に出すのは性分じゃないんで、こんなのは如何です?」
天草が銃を下ろしたかと思うと、縁寿の唇に何か柔らかいものが触れた。
「…っ!?」
そして、縁寿が驚いたかと思うと、銃声が鳴り響き縁寿は動かなくなった。
「さて、俺もそろそろ行きますかね。」
天草は崖に向かって歩いていった。

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