□ドラヱリ
1ページ/1ページ

できた。できた。
私はこのことを早く彼女に伝えたくて、しらないうちに歩幅が大きくなっていた。
普段はそこまで30分程かかる部屋に、たった10分で着いてしまう程に。
私はノックもせずに扉を開け放つ。
部屋からは、インクと紙と紅茶の匂いがする。
部屋は、沢山の書類と執務用の机と椅子があるだけの質素な部屋。
その執務用の椅子の上で、ペンを片手に書類にサインをしている10〜12の女の子。
見た目はそれ位だけど、私より年上かもしれない。
何せ彼女は、父親を殺してから成長が止まっているそうだから。
「ヱリカ卿?何か用デスカ?」
彼女は書類から目を離し、私の方をみた。
「ドラノールっ!出来たんですよっ!私のゲーム・・・否、ミステリーがっ!」
私は扉を開け放したまま部屋にずかずか入って行く。
そして得意気なポーズをしてから、傍にある書類の束の上に腰掛ける。
「ヱリカ卿・・・。椅子なら持って来させますノデ・・・書類に腰掛けるのは遠慮して欲しいのデスガ・・・」
ドラノールが言うと、彼女の傍の書類が移動して、何も無くなったそこに椅子が現れる。
「これは?魔法・・・なワケないですよね」
「ノックスでも許されてイル魔法デス」
あぁ、確か・・・ノックス第九条…でしたっけ。
観測者は自分の判断・解釈を主張することが許される。
なるほど。つまりこの魔法は存在できるわけですか。
まぁいいです。
私はドラノールの傍にある椅子に腰掛けた。
うんんん。実にグッドです。座り心地がいいですね。
このまま眠れそうです。
「それで、ヱリカ卿。一体何の用デショウ?」
「あぁはい。ゲームができたら解いてくれるって約束じゃないですか。
 私は貴女が解いてくれるのを心待ちにしてたのに・・・忘れてたんですか?」
私は少し(かなり)大袈裟に言った。
しかしドラノールは慌てる風もなく首を横に振った。
「まさか。私も待ってマシタ。それデハ、あなたの作ったミステリーを見せて下サイッ!
 私が解いて見せまショウ!」
ドラノールは椅子から飛び降りてガッツポーズをした。
「ふふ。どうでしょうか。とびきり難しいのを作りましたよ?解けるんですか?」
「解いて見せマスっ!」

「む・・・」
「うっふふふふふふふふふふっ!無理ですかリザインしますかっ?そしたら私の勝ちです!」
「む・・・むぅ・・・」
ドラノールは苦戦しているようだった。
当然。私は戦人さんと違ってロジックエラーなんて起こさないし、ノックスにも遵守している。
ああ、楽しい・・・この愉悦!

「ヱリカ卿?」
「何です?」
「楽しいデスカ?」
「え?」
それは突然だった。
ドラノールが眠いというので寝室に案内して、部屋の明かりを消した後だった。
暗いのでドラノールの顔はよく見えなかったが、声色からして真剣な顔をしているんだろう。
「こんな広いところに一人で、楽しいデスカ?」
「・・・っ。楽しいですよ。当然です。主からの素敵な贈り物ですから。」
「一人で、ミステリーを作って、誰も居ない所で、寂しくないのデスカ?」
「元々一人ですから。私がミステリーを作るのは、いつか主に私の謎をみて貰う為です。
 それに一人じゃないです。優しい旦那様に、愛しい小鳥と、それから親友のあなたがいますから。」
「デスガ、ベルンカステル卿が此処に来ることは・・・」
私はドラノールの唇に指を当てた。
「ドラノール。言葉には意思が宿るんですよ。」
「そうデスネ」
我が主が此処に来ることは多分、否、絶対ない。
主は別の世界に居て、此処のことなんか忘れているだろう。
あぁばからしい。私は主よりも目の前にいる親友が大切なのだから。
古き主よりも、ドラノールの方が大事。
   
ああ、ベルンカステル卿。ひとつだけ感謝します。
こんな良い友人に会わせてくれて、有り難うございました

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ