Noise

□CERULEAN BLUE
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冬は綺麗だ、幻想的で美しい。

海も深く蒼くて冷たくて、街はイルミネーションが輝いている、雪は手の平で淡く溶ける

恋人たちは歌を唄って、手を繋いで、キスをして、抱き合って、時には涙も流すけれどそれもまた綺麗で。

空は澄んでいて、数々の星達も輝きを放っている


セルリアンブルーの海に溶けてゆけたら、この想いは海に流してもらえるだろうか



『Cerulean blue』



歩くのも覚束ない足で砂浜にただ、ただ佇む。

ふわふわと舞う雪が海の水に溶けて混じっていく

俺もあの海に溶けて消えてしまいたい、今すぐに。

思うものも無く、思われることも無い、全てが自分を否定している

この金色の髪も、目を隠す前髪も、いつまでも外せないままでいるティアラも

全てが『否定』に彩られる

腰より下まであるボーダーのロングTシャツ1枚だけを着て海を見つめる

別に寒くは無い、そんなの思い感じた事は無い

ただ消えたい、それだけ



俺はとあるマフィアに捕らえられて、何の目的かは不明だが真っ暗で窓の無い部屋に閉じ込められていた。

普通に過していただけなのに


ただ起きて、朝食を食べて、学校へ通い、帰って夕食を食べて、風呂に入って、寝る

それだけを繰り返していただけなのに、こうも世界は歪んでいる事を突きつけられた


そこであったことはもう何も思い出せない

ただ言えるのは嫌になって誰かが落としていったナイフで部屋を無理矢理出て行ったという事だけだ。




青い空に手を伸ばしてみる

どうして空と海はこんなに綺麗なんだろう

どうして空を海はこんなに自由なんだろう


もしも俺にあの雲が掴めたら、どうなるのだろう


訳の分からない事ばかりを頭に並べ、思うように動かない足を海へ海へ動かす

セルリアンブルーの海は太陽の光を反射し、キラキラと宝石のように輝いている

海は俺を、この髪を、ティアラを、否定せず包み込んでくれるだろうか

愛してくれるだろうか



十四の俺はまだ、死について良く分かっていないんだと思う

ゆっくりと冬の冷えた海に身を沈めていく


そんな時。




「何してんですかー」




遠くで声が聞こえた

ふ、と振り向いた瞬間、エメラルドグリーンに輝く髪をした青年(少年かもしれないが)が立っているのが分かった

大分距離があるから顔までは良く分からないけれど、アイツは早歩きで近づいてくる


徐々に顔が分かる距離まで来た時に、アイツの顔色が一変した

切なそうで、嬉しそうで、悲しそうで、幸せそう

そんな、顔。


急に歩く速度・・・いや、走って俺の方に近づいてきた


「セ・・・センパ・・・イ」


間近で見れば結構背が高い、ソイツは俺を見るなり『先輩』とか言い出した

勿論俺はコイツを知っているわけでもなく、先輩になった覚えも無ければ、後輩にした覚えも無い

ただ、コイツの声を聞いて何かが切れた




「お前は・・・俺を愛してくれ、る?」



何を聞いているんだか、自分でも良く分からない

初めて会った人間にこんな事聞いて、「愛してあげる」なんて言う奴はいても一人、二人だろう

でも、存在を認めてくれる人が欲しかった

誰でもいい、思う人が欲しかった



「愛してるに決まってるじゃないですか・・・っ」



「・・・お前の事思ってもいい?」



「当然ですよ、ベルセンパイ」



どうして俺の名前を知っているのかなんてもうどうでも良かった

自分より大きな身体が冷たい海の中で抱きしめてくれる

あぁ、何で人って温かいんだろう



なぜか涙がポロポロと流れていき、初めて会った人間に自分の全てを捧げることに決めた

好きかどうかなんてどうでもいい、ただ思わせて

そして少しでもいいから俺を愛してほしい




「名前・・・」



「えっと・・・ミーはフランといいますー」



フラン

その名前を異常なまでに愛おしく感じたのはどうしてだろうか

分からないけれど懐かしく感じて、愛しくて、だけど思い出せなくてもどかしい感じ。



「フラ・・・んっ」


フランの顔を見つめていたら突然キスされた

一瞬何がどうなったのか全く理解出来なかったけれど、しばらくして理解することが出来た

唇が熱い、火傷するんじゃないかってくらい。




「センパイ、もう一回してもいいですかー」



「センパイじゃないっつってんじゃん・・・いいけど」


フランは違う誰か俺を重ねて見ているのだろうか

さっきから先輩、先輩、って俺は先輩じゃない。

まぁ、それでもいいか




「ん・・・んぅ・・・」


頬を両手で挟んでしっかりと固定する、それから何度も何度も深いキスを交わして抱きしめ合った

キスなんてした事無かったし、俺不器用だから、フランに迷惑かけたかもしれない

それでも俺にキスを求めるフラン、愛しそうに俺を見るフラン


そんなフランが俺も好きになりそうで、何よりも怖かった。




このセルリアンブルーの海は、俺が恋をすることを許してくれるだろうか






CERULEAN BLUE


(海が二人を攫ってくれればいいのに)

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