Noise

□EMERALD GREEN
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冬は嫌いだ

センパイと過した日々を隅から隅まで思い出させるこの冬が大嫌い

冬の冷えた蒼い海も、街で輝くイルミネーションも、手の平で溶けるこの雪でさえも

まるで冬がセンパイを連れ去ってしまったようで憎らしい。

だけど色褪せないセンパイとの思い出は、今でも消えることなくこの海の底で嘆くばかりだ




『Emerald Green』





センパイが死んでから、14年もの月日が流れた

今ではもうベルセンパイよりも年上になってしまったし、身長も高くなった

幼かった頃はもっと高くなりたいと願っていたけど、今ではもうどうでもいい話だ

あの時は、ただ自分より背が高いセンパイを包み込みたかった

だから牛乳もたくさん飲んで、色々やって身長を伸ばそうとしていたけれど、今になっては包み込むどころか触れることさえ許されない

今更になってまだ少しずつ伸びる身長も憎たらしく思えてくる


腹立ちながらもグラスに入ったウィスキーを一気に飲み干した

その時たまたまカレンダーが視界に入った

『今日』の日付にを囲む赤い丸には何か意味が込められていた。

ミーに記念日なんてそこまで無いし、書くなんて余程大切なことなんだと思う


ふと浮かんだセンパイの笑顔で、今日の日を思い出した

そうだ、センパイと付き合い始めた日だ

ものすごく大切な日なのに、どうして忘れていたんだ、ありえない

窓の外の青い空を少しだけ見つめて、

新しくなった隊服を着てミーは屋敷を飛び出した









車を降りた瞬間冷たい風が頬を掠った

ただどうしても流れていく涙を抑えることが出来なくて、涙が流れた痕を風が刺激する

寒いような、心地良いような。


隊服の裾で涙を拭って、あの日告白した場所へ向かう

ちょうど海が近づいてきたあたりで、ある異変に気付いた


海の中に人がいる


それもこの冬の寒い時期に服を着たまま一人で。

かなりの距離があるから顔までは分からないけれど、金色の髪である事は分かった


おかしいじゃないですか、冬に服を着たまま海に入っていくなんて

この時にミーに考えられたのは、あの人は自殺しようとしているのか、はたまたただ海に入っているだけのバカなのか

普段のミーなら勝手に死ぬなら死んでくれ、と放置しているところだけれど今回はそんな気にはなれなかった




「何してんですかー」




余程の時にしか出さない大声で海の中にいる少年(仮に少年として)を呼び止めた

少年はこちらの声に気付いたようで、ゆっくりとこちらに振り向いた


また海に入ってしまう前に止めなくては。


そう思って歩き出して、ミーは絶句した。

その人の顔を見たとき、息が詰まりそうになるくらい胸が締め付けられた

大好きで愛しくて可愛くて綺麗な


無意識のうちに足は勝手に走り出していた

そして、ただただ走って何も考えず海に飛び込んだ



「セ・・・センパ・・・イ」




海に光るブロンドの髪、太陽に反射して輝くティアラ、似合いすぎたボーダー柄、瞳を隠す伸びた前髪

何もかもがセンパイだった


何も言わずにミーを不思議な視線で見つめる、ベルセンパイ

やっぱりセンパイは死んでいなかった、ミーのところに帰って来てくれたんだ

嬉しくて嬉しくて泣きそうで、そう思った時には少し涙が目尻に溜まり出していて。


そうしてやっと口を開かなかったセンパイが口を動かした




「お前は・・・俺を愛してくれ、る?」



呂律が回らないその喋り方と声はあまりにも胸を締め付けた


センパイじゃない。


良く見れば髪も無造作にはねていないし、身長もあまりに小さすぎる

まるで写真で見た幼いベルセンパイ

じゃあこの人はセンパイでも何でもなくて、たまたまソックリなだけなのだろうか


だけどそんな偶然あってもいいのだろうか


普通はティアラなんて付けないし、声だって若い頃はこんな感じだったと思うし

だけど頭より体は先に動いてしまった



その小さい体をキツく・・・キツく抱きしめていた


「愛してるに決まってるじゃないですか・・・っ」


目の前にいるこの人が愛しくて、だけど愛しいのはベルセンパイで

良く分からない思いに惑わされながらも、抱きしめるのを止めようとはしない矛盾したミーの身体


「・・・お前のこと思ってもいい?」


なんて一々確認を取ってくるから余計と可愛く思えてしまうミーはきっと末期だ



「当然ですよ、ベルセンパイ」



・・・あ、思わずまた呼んでしまった。

だけど今更言い直そうなんて気にもなれなかった

それよりも名前も知らない相手を好きになりそうという事実の方が余程怖かった


するとこのセンパイ(あぁ、もうセンパイでもなんでもいいんです)はミーの背中に細い腕を回した


胸に顔を埋めてスリスリと頬を上下に摺り寄せてくる、な、何なんだこの甘えっぷりは・・・

と思えば、ミーを引き剥がした。

あぁ、可愛かったのに・・・




「名前・・・」



「えっと・・・ミーはフランといいますー」



名前を聞いてきたセンパイに微笑んで名前を答えた

何だか難しい顔になってミーを見つめてくる

しばらくミーもセンパイを見ていると、段々ムラムラしてきてしまったわけで。



「フラ・・・んっ」


センパイが口を開いた瞬間を狙って頬を挟み、唇を押し付けた

最初はただのフレンチキスで抑えよう、嫌がられたらそれこそ悲しい。


一度唇を離せば息を荒くして真っ赤になっているセンパイ


「センパイ、もう一回してもいいですかー」

ピンクの頬を撫でながら許可を得ようと交渉する


「センパイじゃないっつってんじゃん・・・いいけど」



いやいや、センパイじゃないなんて聞いてない。

まぁ、分かってはいるのだけれどやっぱりその顔を見ていると思わず呼んでしまう



また頬を両手で挟んでこんどは唇を割って舌を捩じ込んだ



「ん・・・んぅ・・・」


ザラザラな舌と舌が擦れ合って、お互いの唾液が混ざわってクチュクチュと卑猥な音をたてる


「ふ・・・っんぅ、んん・・・ふぁ・・・っ」


キスしながら漏れる可愛い声とキス甘さにミーは完全に酔ってしまって、全てを忘れて何度も何度も深いキスをした

少し下手なキスが可愛くて、だけど角砂糖みたいに甘くて、愛しく思えるこの人を思い切り抱きしめてみたり、また小さなキスをしてみたり




分からない


ミーが好きなのは今でも"ベルセンパイ"だけど、この人はベルセンパイじゃないベルセンパイ

ミーは名前も知らないこの人を好きになってしまったのだろうか

だけどそれはベルセンパイに重ねて見てしまっているんじゃないか

それは後々この人を傷つけることになってしまうのではないか。

重ねて見られる辛さは、十分分かっているつもりだ

ミーだってベルセンパイに何度も前任と重ねて見られていたのだから・・・
分かっていながら重ねるなんてそれこそ質が悪いじゃないか


今ミーのエメラルドの目に映っているのは、紛れも無くこの人なのだけれど。




ベルセンパイ、もしもミーがこの人を好きになったら、センパイは笑って受け入れてくれますか




EMERALD GREEN


(いっその事この海がミー達を攫ってくれればいいのに)

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