頂き物

雨とダージリン
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「あ、来た」
雨が降ってきた。
重く沈んだ雲が更に広がって、俺たちの頭上を覆ったのだ。
アスファルトも色を変えていく。
「傘、持ってきて良かったな」
「うん」
「いつもの所、寄ってく?」
二つの傘が左右に微かに揺れながら、滴を跳ねては返す。
紺と黒。
でかいのとちっこいの。
二人で通学路の長い坂を下る。
いつもの喫茶店に足を進める。
……最近、雨ばっかりだ。


「ちょっと濡れたね」
英は傘を丁寧に畳むと、傘立てに突っ込んで先に店に入った。
それに俺が続いた。
「人多いね」
「雨だからだろ」
「そうだね。……あ、窓側空いてるよ!」
英が俺を手招きして呼んだ。
何か俺、英の飼い猫みたいだ……。
英について席に座る。
店の端っこって何だか落ち着く。
「この雰囲気好き」
「何か、少女趣味くせー」
「トシはそう思わないの?」
「スグルだけだって」
英はメニューを捲りながら、そうかなぁ、と呟いた。
「トシはコーヒー?」
「今日はどうすっかなぁ」
頬杖ついてメニューを覗き込んだ。
変わらないいつものメニュー。
雨の匂いと焼き菓子の匂いが心地いい。
「ミルフィーユ美味しそう」
「今日のスグル、女みたい」
「うるさいなぁ……で、トシは何頼むの?」
あ、英がちょっと拗ねてる。
「ダージリンだけ」
「えー、食べないの?」
「食べない」
「トシが食べないなら、オレどうしよう」
英はいつだってそう。
自分だけ何かすることがない。
「やっぱ俺もミルフィーユ食う」
「さっき乙女とか言ったの誰だよ」
そう言いながらも英は嬉しそうだった。
それを見て思わず微笑みが零れる。
可愛くて愛しくてたまらなくて。
「好きだし」
「甘いの好きだっけ?」
「……今好きになった」
「変なの」

ウェイターに注文を伝えるのも英。
前に、嫁に行けると言ったら、貰ってくれる人がいたらね、って言っていた。
本当に嫁に取られそうな奴。
「雨さっきより酷くなってない?」
背中越しに窓を見つめる英。
童顔に色素の薄い髪がかかっている。
長めの睫がよく分かる。
雨を憂いて、でもちょっと楽しんでいて、綺麗。


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