短編集

キャッチボール
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-キャッチボール-



『シュッ』

投げたボールが透き通るような空を飛んで、グローブに収まる。

『パシッ』

その時の音がどこまでもどこまでも響いて気持ちいい。

『シュッ……パシッ』

相手からボールが帰ってきて、再び俺のグローブに収まる。

キャッチボールなんて久しぶりだな…。

そんな久しぶりの感覚に幾分感動を覚える。胸が高鳴る。

「なんかいーよな。久しぶりにやるのも」

勘汰は俺が思ったことと同じことを言った。
まるで、ボールを通して俺の考えが伝わったかのように。
思わず胸がドクリと鳴った。

「俺も…同じこと考えてたっ」

話しながらも手は休むことなくキャッチボールを続ける。

『シュッ……パシッ』

「まじか」

ニカッと笑う勘汰はキラキラと輝いて見えた。あの夏の日のように。

「思えばさ」

「ん?」

「今までは嫌ってほど毎日お前のボール受けてたんだよなー」


部活で、最後の夏の大会に向けて毎日毎日勘汰に向けて投げた。
勘汰は毎日毎日俺のボールを受けた。
今なんかよりもキャッチボールなんていくらだってやってた。

「楽しかったなぁー」

「だな」


夏の日、誰よりもキラキラ輝いて見えた勘汰の笑顔。
その笑顔が見たくてどんなときでも一生懸命投げた。

―いいね〜!

そんな笑顔に惹かれたことは内緒だけど。


「負けちゃったけどさ、良い思い出だよな」

「ああ」

『シュッ……パシッ』

「あの時、もっとお前を上手く投げさせてやればなぁ…ってずっと思ってたんだぜ」


―ごめん

あの時、涙も流さずにただ悲しそうに笑う勘汰の姿に、俺は涙が止まらなかった。


「俺だってお前のリード通り投げられるような凄い投手に成りたかった。お前の期待に応えられるようなさ…」


『シュッ……パシッ』


グラウンドにはただボールを投げる音と、グローブに収まる音だけが響く。
青空には白いボールが往ったり着たり。
無言のキャッチボールが続く。
だけど、言葉じゃない、何かがお互いに伝えてる気がする。いや、そうだといいな。
今の俺の気持ちが伝わるなら……。

『勘汰が好きだ』

ずっと言いたくて言えなかった言葉。ボールに乗せて伝えてみた。きっと伝わるといいな。


「なぁ悠斗」

「え!」

「何びっくりしてんの?」

「いや、いきなりだったから……んで何?」

まさか本当に伝わっちゃったのかと思った。違う……よね。

「受験終わったら…またこうやってキャッチボールしようなっ」

「うぉっ」

力強いボールが俺のグローブに収まった。

「当たり前だろっ」

俺もそれに答えるように力強いボールを投げた。

「それとさ……」

「ん?」

『シュッ……パシッ』

「…………いや、これも終わったらでいーや」

「は。気になるんですけど」

俺はボールを投げずに勘汰に歩み寄った。

「くんなよ!キャッチボール中だぞ」

「お前が教えてくれたら戻るよ」

勘汰は暫く考え頭を抱えた。

「……洒落になんねーし…でも……」

ぼそぼそ何かを呟いていた。
でも、何かを決めたように頷くと俺と向き合った。
その真剣な眼差しが何処か緊張を孕んでいて、自然と自分にも緊張感が伝わった。


「好きだよ。悠斗」


顔にかーっと血が上ってくる感じがわかった。今俺の顔は盛大に真っ赤だろう。
勘汰も相当真っ赤だった。

「…伝わった」

「え?」

「…俺も勘汰が好き。だよ」

何処までも広がる青空。
広いグラウンド。

お互いに顔を真っ赤にして笑って、またキャッチボールを再開する。

お互いの想いをこの白球に乗せて――――。

『シュッ……パシッ』

最初よりもどこか重みのある音が響いた気がした。






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