短編集

サクラサク
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-サクラサク-



「勘汰くーん」

「なんですかい。悠斗くん」

受験も終わり、俺たちは「恋人同士」になり、残りの高校生活を満喫していた。

「…バイト楽し?」

「楽しいよ」

ただ、勘汰は受験が終わったと同時にバイトを始めたらしく、なかなか二人の時間が取れないんだけどね。今日はそんな貴重な時間の一つ。

「勘汰くーん」

「なんですかい悠斗君?」

そして俺たちは、お互いにそれぞれ別々の大学に合格し、4月からは晴れてピチピチの大学生になる。

「…………」

「…なぁに。どした?」

でもどこか素直に喜べない自分がいる。

「…俺、さ…」

「?」

勘汰と離れ離れになるのが嫌なんだよ!寂しいんだよ!
…って言いたいんだよ。ばーか。

でもさ、面と向かって言うのはどうも性に合わないらしく、なんだかすっげーこっぱずかしいんだ。
それに、今更勘汰にそんなこと言って困らしたくもないから凄く気が引ける。

「うー………はぁ」

「何だよ。唸ったり、溜め息ついたり。ほら、何でも話してごらん?勘汰君が聞いてあげるよ?」

「……ばーか」

少しくらい察してくれよ。
でもさ、勘汰も少しくらいは俺と同じこと思ってくれてるのかな。俺だけの一方通行だったら本当虚しいじゃん。

「…勘汰はさ、大学楽しみ?」

「え?…そりゃ楽しみだよ」

満面の笑みで言いやがって…。
…勘汰は本当に俺のこと好きなのか?
………うん。そんなこと考えるのは止そう。
俺は勘汰を信じたいから。

―あの時。

勉強の合間にやったキャッチボール。思わぬ形でお互いの気持ちもキャッチボールしちゃったけど、あの勘汰の想いは本当だと思うから。

「悠斗はどうなの?」

「…俺は……」

正直に言っちゃうよ。

「俺は勘汰居ないから…寂しい。んだよばーか!」

あー。恥ずかしい。辱めの刑ですか?結構重たい刑じゃねーか。このやろー。
あー。顔が熱いんだよ。このやろー。もう顔が上げられない。

「…なんだ。そんなことかぁ。もうさ、さっきから思い詰めてる……」

「そんなこと!?」

「あ、いや…」

俺の思いは勘汰にとって「そんなこと」で済んじまうのかよ。
やっぱり俺の一方通行だったのかよ…。

「もういい。勘汰は俺のことどうでもいいんだろ…。もういい」

俺が頭をうなだれていると、ふと誰かに体を包まれる感覚がした。

「ごめん。悠斗がこんなに思ってくれてるのに酷い言い方して。でも…俺だって悠斗のこと思ってるから。信じてよ」

言い終わると俺を抱きしめる腕の力が少し強くなった。そして「ごめんね」って何度も何度も繰り返した。

「…でも勘汰大学楽しみって」

勘汰は腕の力を緩め、俺の腰に腕を回したまま、俺に向き合った。

「そりゃ大学は楽しみだよ」

「………」

「行きたい大学に行けるんだから、そりゃ楽しみさ。でも、」

「でも?」

「悠斗が一緒じゃないと寂しいのは俺だって一緒だよ」

「悠斗が一緒ならもっと楽しいだろうなーとか考えるよ。でも悠斗だって望んだ大学に行くんだから。我が儘なんて言えないなって」

勘汰も同じだったんだ。
少しでも疑った自分が恥ずかしい。
勘汰を信じ切れなくて本当に自分が恥ずかしい。

「…ごめんなさい」

俺が謝ると勘汰は首を横に振って、

「俺の方こそごめんなさい」

そう言って俺を再び抱きしめた。
暫く、どれくらいかはわからないけど、長い間俺たちは抱き合っていた。


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