アイヲサカシテ
□第一章
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-朧月夜に-
それは月が仄に霞んでいた夜だった。
朧月夜ともいうのか、ぼんやりと輝く月はどこと無く哀愁が漂っている。
一人歩く道を、そんな月の儚げな光が照らしている。
この道は街頭が少ない。そして驚くほどに薄暗い。
俺は男ではあるが、夜に一人で歩くのは気が引けるほどだ。そのうえ、朧月のぼんやりとした輝きではより恐怖心が煽られてしまうような…。
しかし、今日は不思議とこれに陶酔しきっている自分がいる。
安らぎが感じられるほどに。
(…こういうのも悪くないな)
こう考えるのは、今日は多くのことが起こったからだろう。
自分としては最悪の。
まずは両親が海外に転勤した。
いや、ある意味では喜ぶべきことなはずだけれど生憎俺は家事全般が得意ではない。
生きていけるかが心配だ。
次に二年ほど付き合っていた彼女と破局した。いや、裏切られた。
なんだかやる瀬ない思いだ。
そしてつい先程のこと、バイト先でレジの金を横領していた犯人に疑われさっきまで事情聴取。勿論疑いは晴れ、店長は何度も頭を下げていた。まぁ、続けられるはずがないので結局は辞めることになったのだが。
俺、どうしたらいいんだろう。
こうも悪いことが重なるだなんて、中間テストと期末テストと学年末テストが一度に来たようだ。もう打つ手がなくてどうしようもない感じ。高校生の安直な考えです。
「はぁ…」
視界に映るこの月が唯一の安らぎ。何故にこの月は俺の心を安らげる。霞んだ夜空に見える月の放つ光が、憂いに満ちた俺を優しく照らすからか。哀愁には哀愁を、なのか。
とにかく安らげる物には違いない。
なんだか年寄りみたいだな、なんて考える。
空だった心に少しの温もりを感じたところで俺は帰り道を急いだ。
どれほど彷徨していたのか。気付けば時計は日付が変わる頃を指しているではないか。
(バイト先を出たのが11時頃だから…)
かれこれ一時間程たつ。バイト先から自宅までは15分も掛からないはずだが…。
(…なんでだろう)
一時間も歩いていた事実に気付けば、急に疲れが押し寄せる。
(帰ったら…早く眠ろう)
俺は歩を速めた。
「やめ…っろっ!!」
ふと静かな住宅街に、その場に相応しくない声が響く。
(声色からして男…か?まさか…リンチとか…か?
こうしちゃいられない。助けないと。いや、やめとくか…?いかんせん不幸中の身だ。助けて一緒に…なんてことも。いや、見捨てるなんて…。)
――四の五の考える前に行かないと!
俺は声がしたほうへ急ぐ。
こういうのを見逃せない性なんだろう。
こうして俺は不幸になるんだろうか。
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