連載「ボールと白」

□Q21
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両チーム共に肩で息をして汗がだらだらと垂れる。
ベンチに腰かけドリンクをごくごくと飲み干す勢いで喉を潤す。
俺は眼鏡を取りタオルで顔を拭いた。




「同点か・・・。まあまあの結果だな」

「はぁはぁ・・・ったく、しんでぇぜ・・・マジ」

「黒子っち!大丈夫っスか!」

「し・・・ぬ・・・ぅ、っ」

「明音ー・・・だいじょーぶ?」

『はぁはぁはぁはぁ・・・』




黒子は何とか言葉を発すが、明音は目も朦朧(モウロウ)として危ない。
紫原が肩を掴みガクガクと動かすが無抵抗。
紫原に離れろ、と言った。
ダメだ、本当に危険な状態に至っている明音の頭から水をかけた。




『ぅ・・・あ』

「正気に戻ったか?」

「ミドチン最悪ー俺も濡れたじゃん」

「だから離れろといったのだよ」

「おい緑間、俺も俺も」

「自分でやれ馬鹿が」

「んだとぉ!」

「やめろ青峰、見苦しい」




髪の毛はぺったんこになり毛先からはぽたぽたと雫が垂れる。
そんな明音の頭にタオルを被せ優しく撫でる様に拭いてやる。






『(っ・・・だれ、母さん?父さん?冬弥?)』






だいたいの雫を拭い終わり両頬を掴んで俺の顔へと向かせる。







「・・・目が戻ってきたな、大丈夫か?」

『・・・っぁ』

「俺が分かるか?」




疲れた、そう顔に書く明音にそう問いかけた。
別に答えを待っているわけでは無かったが、何か言いたげの明音に、何だとまた問う。




『しんた、ろ・・・だ』




「・・・!!!」

「「「「「ッ!!!」」」」」






薄く笑い俺の名を呼ぶコイツに皆吃驚だ。



俺は驚きすぎて両頬を持ち上げたまま固まっていた。
が、それは黄瀬によってベリッと引き離された。




「マジ大丈夫っスか?俺の事分かるっスか?涼太っスよ?」

「黄瀬ぇえ!何シャラッと誘導してんだゴルァ!!」

「シャラッとって何スか!!?」



続いて黒子と青峰、紫原も近寄る。



「大丈夫ですか明音君、洗脳されてしまったのですね。」

「明音・・・頭シャララになってない?」

「危なっかしいからお前今日から俺と一緒に行動な」



「お前の方が危ないだろう青峰っ!!」


「名前呼ばれた野郎は黙ってろッ!!」






明音のお母様の言葉を聞いてからキセキの連中の明音への態度がまた変わった。







「あの子はね、なかなか人とのコミニュケーションが出来ない子なんだけど、
本当に“仲が良くなったと思う人”には無意識に名前で呼ぶのよ」









そして、俺は明音に名を呼ばれた。


その事実が俺の胸を熱くする。



当の本人は今の状況を掴めておらず、周りが騒ぎに騒いている。

ああ、後ろから何かとてつもなく嫌な感じが漂ってくるのだよ。




「緑間」


「っ・・・何だ」


「これからロードワーク、逝っとく?」


「・・・っ!!」





笑ってないのだよ赤司、そして俺は逝かん。

はぁ・・・クマ吉、お前は今日の俺の補正をしてないのだよ。










―――――――――







「つか、なんでお前等コンビ組んでんの?」




そんな問に隣にいる明音は『放課後練習で考えたんだ』と少し自慢げに笑う。
両手を頭の後ろにする青峰は張り合うように黒子の頭を掴んで「俺達だって!」と笑う。




「み、緑間っち大丈夫っスか?」

「ゼェゼェゼェ・・・あ、ああ」

「さすが緑間だな、本気で走ったようで俺も嬉しいよ」

「赤司っち・・・(マジでこの人容赦ねぇ・・・)」

「おや、黄瀬も行きたかったかい?」

「全然っス!!」




考えてることが見え見えなのだよ黄瀬!

同情などいらん!




ちらと、前で歩く明音の姿を見る。
アイツは、俺の名を呼んだ。

つまり、俺がお前と仲がいい、いや・・・ニュアンスが違うな。

お前は、俺の事を仲がいいと思う人、そう思っているのだな?そうなのだな?



こうも嬉しいと思う自分は、らしくないのだよ。



ああそうさ、俺は知ってる。
もう知ったんだ。


あの放課後練習から・・・




















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