Lily*

□斜光
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「俺ァお前を殺してぇ。

でもそれ以上に、テメーを殺してやりてぇんだ」

お前はどうだ?と、目の前の金髪に問いかける。

「俺も晋ちゃんを殺したいよ、勿論。でも死ぬときは一緒って決めたから。今」

「そーかい」

クククッて、噛み潰したみたいな変な笑い声が口から飛び出した。少しだけ熱い目頭に、頭が痛くなる。

「愛だか憎だか知らねぇが、酷く歪なモンだな」

呟く様に言ったら、金髪に髪を撫でられた。すかさず目を閉じて意識を集める。懐かしい匂い。


スナックお登勢二階、万事屋晋ちゃん。俺は今、畳の上布団の上着流しの上。そして金髪は俺の上。強いて言うなら俺の中。

「いた、あぅ」

思いっきり突かれて、背中を仰け反らせたら障子の隙間から満月が見えた。雲一つ無い、良い夜。

「晋ちゃん、どこ見てんの?」

金髪が俺を真っ直ぐに見据えて問うてくる。

「晋ちゃ、って……あ、ん、呼ぶなッッ」

「ごめんごめん……晋助」

名前を呼ばれた瞬間、耳元で囁かれた声に全身が震えた。どうしようもなく疼く下肢を何とか止める。きつく巻いていた筈の包帯は、はらり。と、ずれた枕の横に音もなく落ちた。

うっすらと黒ずんだ染み。あぁまた血が出た。

「晋助のこと」

卑猥な音を出しながら、金髪は腰を打ち付けてくる。

「ずっと好き、好きなの」

言葉が幼くなっていくのも構わず、俺に愛を囁き続けて。布団に押し付けられた頬が擦れて痛い。だから、一つしかない目を閉じて、声だけを聞いて、匂いを思い出す。自分の鼻から抜ける喘ぎ声をどこか冷静に聞いて、ああまた

現実逃避。

「もっ、無理……っあ!!」

「一緒にイこうか」

「や、あっあっあっあッッ」

「晋助っ、」

「アッッ―――













また、やってしまった。

荒い呼吸のまま、乱れた髪越しに金髪を見上げたら。愛しさと、それから、蔑むみたいな目をしていた。

「晋ちゃん、」

それでもその真赤な目玉から目が離せなくて、撫でられた頬が熱を持つ。鼻をつく臭いに顔を背けたら、その臭いの元である白濁を唇に塗られた。

そのまま口付け。何度も。

流石に自分のだから我慢したが、もうあんな苦くて生臭いキスは御免だ。

「晋ちゃん、見て」

金髪が少し泣きそうな顔で、俺に、訴えた。俺の翡翠色の目玉に話しかけるように。でも、いくら泣いたって叫んだって、俺がお前を見ることはない。

「俺を見てよ、晋助」

俺はあいつしか見えない。

本当は一番良く分かってるはずだ。俺が振り向く事は無いと。それでもいいと言って、金髪は俺を抱く。そしていつも、寂しそうな顔をして帰ってゆく。分かってるなんて、嘘だ。

「本当に歪だなァ、俺達は」

笑ったけど、やっぱり可笑しな声が唇の隙間から零れただけだった。

「晋ちゃんは、死にたいの?」

金髪が俺の隣に寝転びながら問うてきた。上掛けを引っ張り上げて布団にくるまる。準備万端?

嗚呼、そーだな


「死にてェ」


布団を思いっきり蹴飛ばして枕元にあった真剣を抜く。金髪の手には、既にナイフが握られてて。俺の刀と金髪のナイフが、障子の隙間から延びる薄い月明かりを映して、綺麗。

二人で、少しだけ笑った。

腹に鈍い痛みと目眩。反射的に刀を横に滑らせる。ごとり。鈍い音と目の前の首無し人形を見つめた。最後だから、一生懸命見た。首を抱くとまだ温かくて、赤いのがぼたぼた垂れてきて、ついでに俺からもぼたぼた。やっぱり似てる、と思った。似てるどころか、まるで双子。

「なぁ、お前は

お前は俺を愛してたのか?

本当に?」

物言わぬ口は、腕の中でただただ冷たくなっていった。




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