Lily*
□紫煙
1ページ/4ページ
迎え火を焚いたら
煙たくて、目に染みて、
泣きたくなった
今日から、世間的に言うお盆が始まった。まー簡単に言えば、ご先祖様が昔懐かしい自宅に大集合する日。未だ蝉が煩ェ夕暮れに、墓掃除やら買い出しやらの依頼を済ませ、疲れ果ててソファーに沈んでたら。玄関の引き戸が独りでに開いて
「ただいま、銀時」
って、恋人が帰ってきた。
「お帰り、高杉」
どーだった?あっちは、
「寂しかった?」
こくり、と頷いて、俺の隣に腰掛けた。いつも同じ、多分これからもずっと同じ赤い着流しを羽織ってる。鼻腔を掠める、香の匂い。いつもと違う、ちょっと高そうなやつ。
「ね、触っていー?」
一応聞いて、それから返事を待たずに腰に抱きついた。細い細い。花と煙草と香の匂いが混ざって、それでも嫌とは感じなくて、むしろ性懲りもなくエロい気持ちになった。したら、頭の上からクックッて喉潰したみたいな笑い声が聞こえてきて、頭撫でられた。
「まだ、駄目」
そー言って煙管を銜える。こいつはいつの間に、読心術を身に付けたらしい。時計を一瞥して飯は?って聞いたら、二つ返事で、いらね、って返されたから俺もその辺にあった饅頭食って夕飯終了。
「いつまでいんの?」
まァ分かりきってるけど。
「盆が終わるまで」
煙を吐きながら、遠く見たまま呟く。あんまり寂しそーだったから、隣からそっと抱き寄せたら、
「暑くねェの?」
怪訝そーな顔でに聞かれた。でもちっとも暑くない、むしろ、
「嬉しい」
「意味わかんね」
高杉は至極楽しそうに笑うと、肩に頭を預けてきた。黒髪がサラサラ揺れる。
「でも、俺も、嬉しい
会いたかったぜ?
お前に」
長い睫毛がふるふると揺れた。
「俺の方が会いたかった」
負けじと言い返す。俺も、これだけは譲れない。
「俺を置いていきやがって馬鹿テメーコノヤロー」
「そー思ってんだったらもっと早く迎え来やがれクソ天パ」
細い指で鼻を摘ままれた。痛いから、地味に痛いからマジで。あ、鼻の奥がツーンとしてきた。
しばらくそーやってソファーの上でうだうだしてたら、窓の外で花火が鳴った。割りと近くで上がってるらしく、音も大きい。打ち上げられる度に、部屋が少しだけ明るくなる。
「銀時。花火、花火」
ニコニコしながら、高杉は俺の袖を引いた。そーいやこいつ、祭り好きなんだっけ。
「見に行く?」
って聞いたら、それでも首を横に振った。
「ここで、お前と、いたい」
唇から、煙がこぼれた。
気が付くと、隣で高杉が寝てた。つーか俺も寝てた。ぼける視界で時計を覗けばまだ夜中で。ソファーでうたた寝した分痛む背中を擦りながら、高杉を布団に運んだ。相変わらず、軽い軽い。
隣にもー一枚布団敷いて、花火なんかとっくに終わったであろう真っ暗な空を眺めた。
「あ、」
月、出てんじゃん。
しかも満月。やたら目を惹くその球体に、寝てる奴起こそーかどーすっか迷ったけど結局止めた。寝かしてやろ。
自分も布団に潜り込んで、少しだけ冷たい夜風に混ざる虫の声を聞きながら目を閉じた。
.