Lily*

□紫煙
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迎え火を焚いたら

煙たくて、目に染みて、


泣きたくなった




今日から、世間的に言うお盆が始まった。まー簡単に言えば、ご先祖様が昔懐かしい自宅に大集合する日。未だ蝉が煩ェ夕暮れに、墓掃除やら買い出しやらの依頼を済ませ、疲れ果ててソファーに沈んでたら。玄関の引き戸が独りでに開いて

「ただいま、銀時」

って、恋人が帰ってきた。

「お帰り、高杉」

どーだった?あっちは、

「寂しかった?」

こくり、と頷いて、俺の隣に腰掛けた。いつも同じ、多分これからもずっと同じ赤い着流しを羽織ってる。鼻腔を掠める、香の匂い。いつもと違う、ちょっと高そうなやつ。

「ね、触っていー?」

一応聞いて、それから返事を待たずに腰に抱きついた。細い細い。花と煙草と香の匂いが混ざって、それでも嫌とは感じなくて、むしろ性懲りもなくエロい気持ちになった。したら、頭の上からクックッて喉潰したみたいな笑い声が聞こえてきて、頭撫でられた。

「まだ、駄目」

そー言って煙管を銜える。こいつはいつの間に、読心術を身に付けたらしい。時計を一瞥して飯は?って聞いたら、二つ返事で、いらね、って返されたから俺もその辺にあった饅頭食って夕飯終了。

「いつまでいんの?」

まァ分かりきってるけど。

「盆が終わるまで」

煙を吐きながら、遠く見たまま呟く。あんまり寂しそーだったから、隣からそっと抱き寄せたら、

「暑くねェの?」

怪訝そーな顔でに聞かれた。でもちっとも暑くない、むしろ、

「嬉しい」

「意味わかんね」

高杉は至極楽しそうに笑うと、肩に頭を預けてきた。黒髪がサラサラ揺れる。

「でも、俺も、嬉しい

会いたかったぜ?

お前に」

長い睫毛がふるふると揺れた。

「俺の方が会いたかった」

負けじと言い返す。俺も、これだけは譲れない。

「俺を置いていきやがって馬鹿テメーコノヤロー」

「そー思ってんだったらもっと早く迎え来やがれクソ天パ」

細い指で鼻を摘ままれた。痛いから、地味に痛いからマジで。あ、鼻の奥がツーンとしてきた。

しばらくそーやってソファーの上でうだうだしてたら、窓の外で花火が鳴った。割りと近くで上がってるらしく、音も大きい。打ち上げられる度に、部屋が少しだけ明るくなる。

「銀時。花火、花火」

ニコニコしながら、高杉は俺の袖を引いた。そーいやこいつ、祭り好きなんだっけ。

「見に行く?」

って聞いたら、それでも首を横に振った。

「ここで、お前と、いたい」

唇から、煙がこぼれた。





気が付くと、隣で高杉が寝てた。つーか俺も寝てた。ぼける視界で時計を覗けばまだ夜中で。ソファーでうたた寝した分痛む背中を擦りながら、高杉を布団に運んだ。相変わらず、軽い軽い。

隣にもー一枚布団敷いて、花火なんかとっくに終わったであろう真っ暗な空を眺めた。

「あ、」

月、出てんじゃん。

しかも満月。やたら目を惹くその球体に、寝てる奴起こそーかどーすっか迷ったけど結局止めた。寝かしてやろ。

自分も布団に潜り込んで、少しだけ冷たい夜風に混ざる虫の声を聞きながら目を閉じた。

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