レヴィさん家

□父の威厳
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今日こそ言うぞ、と心に誓った。
仕事が終わり家でテレビを見ながら飲む酒。
今のレヴィの中で1、2を争う娯楽タイムであった。
それが大きさとアルコール度数だけが取り柄の安い焼酎だとしても。
手を伸ばすつまみは夕食の残りで、スクアーロが作ったおかずだった。
肉と野菜を適当に炒めたに違いないそれは、しょっぱいが酒に合う。ただ、これを幼いフランやマーモンが食べていることは少し心配だったが。
子ども達はレヴィが帰宅する前に夕飯を済ませており、ザンザスは自室に。スクアーロはマーモンと風呂。ベルはフランと一緒にテレビを見ていた。レヴィの横に転がって。


箸を置き、深呼吸をする。ついていたテレビはバラエティ番組で、物作り工場の裏側をおもしろおかしく取材していくのを食い入るようにベルが見ていた。

CMになった途端に「オレにもちょーだい」とレヴィのおかずをつまみだした。


今だ。
今しかない。


「ベル。そろそろ前髪を切りなさい。」

よし言った。
そろそろ言わなきゃいけないと思っていた。
ベルの担任教師に言われるまでもなく。勉強だけできればいいというものではない。身だしなみを整えることも家庭の大事な役割だ。
妻が亡くなるまでは前髪も普通だった。妻が切っていたのだろう。
徐々に長くなっていき、長いままになってしまった。
当初は、まだ小学生で、母を亡くした精神不安というか、そういう精神的なもので顔を隠してるんじゃないかと思い、前髪なんかどうでもいいか、ベルが母の死から立ち直っていければ、くらいに思っていたが、いくらなんでもそろそろ切ってもいいんじゃないか。いや、当初は自分自身が子どもの髪の毛のことまで気が回らなかったのだ。

「はぁ?別にいいじゃん。オヤジうぜぇ。」


ああ、これが難しい年頃、さすが中2。
上の子達がこれくらいの時、どうしていたっけ?
ああ。まだその時は妻が健在で、家のことは妻に任せきりだった。


「いや、前髪そんな長いとアレだろう。」


「アレってなんだよ。もう始まるし。黙ってて。」


「こら、ベル!親の話を聞きなさい。」

「うるせーな。」


幼い頃はあんなに素直だったベルが…
あの頃のベルはどこに行ってしまったのか。今はあんなにかわいいマーモンもいずれベルみたいに「うるせーな」とか「オヤジうぜぇ。」とか言い出すのだろうか。


「う゛ぉぉい!ベル!テレビ終わったかぁ?風呂空いたから入っちまえ。」




タオルにくるまれた湯上がりほかほかのマーモンを抱いて、パジャマ姿のスクアーロがベルに話しかけるもベルは無視したままテレビを見ていた。


「なんだアレ?なにへそまげてんだ?」

「うむ…。さっき前髪のことで注意してな。」


「ハッ。今さら?」

スクアーロはマーモンをくるんでいるタオルを取り、マーモンの頭を拭いていた。そのまま着替えさせ、「寝る前にトイレ行ってこいよ」と。
すっかり育児が板についている息子。
長男が家にいた頃は長男がしていた光景だったが…


「スクアーロ、お前も髪の毛切ったほうがいいんじゃ…いや、切りなさい。」


「ハァ!?いきなり何言ってんだぁ?これはこれで結べるし便利だぜぇ?」


む、結ぶ…!?


目の前が酒のせいではなく揺れるようだった。
家事をこなすスクアーロ、弟の世話をやくスクアーロ。髪を結ぶスクアーロ。


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