暗殺部隊
□月夜
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風が強かった。
漆黒の隊服に身を包み、今夜の標的の元へ驚く速さで移動する銀の男と金の少年。
その速さは動物にしか見えないだろう。
雲がその男に負けない速さで移動し、切れ目から覗く満月。月明かりで明るくなったり雲で隠れて辺りが暗くなったり、まるでサーチライトを照らされているようだった。
これから行われる殺戮への危険信号なのか。
風は生暖かく強い。雨も降るかもしれない。雨は全ての痕跡を消してくれる。好都合だ。
森の中を野生動物のように移動してきた2人がついに立ち止まる。
「う゛ぉおおい!髪が邪魔だあぁぁ」
「風強いってわかってたなら、くくってこいよ、バカすぎるし。」
風はその長い銀糸を四方八方に散らす。ヴァリアークオリティも形無し。
同盟ファミリーの一つが、敵対するマフィアに情報を流していることが判明した挙げ句に、ボンゴレと同盟を
結んだのも最初からスパイする為であったことがわかった。
裏切り者には制裁を。
裏切りどころか、最初から裏切る前提で同盟を狙ってきた等、ボンゴレをバカにしているのもほどがある。
標的の規模は大きいが、遣わされてきたのはスクアーロとベルだけ。
いや、2人いれば充分だろう。特殊暗殺部隊の中でも残虐非道な殺り方を選ぶあたりがボンゴレの怒り心頭具合が見てとれる。
今夜は標的マフィア内の野外パーティー。パーティーの内容は婚約披露だか結婚式だか2人は忘れたけど、どのみち血で血を洗うパーティーになるのだから覚えてなくてもいい。
「なんでカス鮫となんだよ。王子1人で充分だし。」
「うるせーぞぉ!髪が邪魔だあぁぁ゛!」
「お前がうるせーし。」
軽口を叩きながら、ナイフが飛び、剣が舞い、血が飛び交う。
「おい。殺されたくなかったら、アイツの頭をお前みたいにしろよ。」
目の前で男達が殺されていくのを腰を抜かして震えながら見ていた女にベルがナイフをちらつかせて、女の頭についていた見事な飾りがついた櫛をぬき、震える手に持たせる。
この女の格好や美貌からすると今夜の主役に違いなかった。隣にいる男は針山のようにナイフがささった、ただの屍だったけれども。
「おい、スク〜こっち来いよ!」
ここが血でむせかえる場所でなければ、なんて無邪気な声だろう。
「あ゛ぁ!?」
「早くー!早く来ないと髪切り落とすよ?しししっ」
反撃をまるで周りを飛ぶ虫を払うかのように簡単に交わしながら、ベルの元へ行く間も、スクアーロの周りにいる敵はナイフで倒されていく。
見目美しい女が震えながらスクアーロの髪を巻いてあげていく。櫛ひとつで見事に。
「うお゛ぉ、こりゃいいなぁ!」
「だろ?王子頭いいー」
「ありがとうなぁ゛!!」
感謝の言葉と共に、美貌が胴体から離れた。
針山と化している男に重なり合うように胴体が倒れたのはせめてもの情けか、偶然か。
ここにいる人間を皆殺しにすることが仕事なのだ。躊躇することなど必要ない。
若く美しい女を殺るのを躊躇うような神経ならヴァリアーの次席は務まらない。
月明かりに、櫛の宝石が光る。碧玉が銀糸をひとまとめにしている様は、まるでスクアーロの為に誂えたかのようだった。
「似合うじゃん、それ。王子に感謝しろよー」
雲の流れが緩やかになり、月を隠し、最後の一人を殺った瞬間に雨が降ってきた。
まるで血の匂いをかき消すかのように。
銀の男と金の少年はまた野生動物のように移動を開始する。今夜の狩りもあっけなく終わった。なんだか殺りたりないなーつまんねーという呟きも雨に消された。