銘々の明晰夢

□5.夢の跡 君は彼方へ
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「ゴヨシミチャミミンガ?」

ユウナレスカを倒し、飛空挺に乗り込んだ一行。
これから先どうすればいいのだろう。何の手立てもない現状に、皆が視線を落とす。

そんな面々を見て、シドは溜息を溢した。

「シケたツラだな……」

「ゴヨミルンガモ!」

「どこ行くどこ行くってしつこいよ! 少しは自分でも考えてよね!」

「どうする、名案を期待しよう」

どこか他人事のように言うアーロンに、ティーダが一緒に考えろよ、とむくれる。

「そうだな……シンはジェクトだ。おまえとシンは確かに通じ合っている。それが突破口になるかもしれん」

「んで、どうすんだよ?」

「それが分かれば苦労はせん」

「だよなあ……」

究極召喚無しでシンを倒すなど、前代未聞

先人も居らず、何か参考になる文献が残っているわけでもない。
答えを探すならまだ時間と労力さえあれば何とかなるだろうが、今回の件はその答えすらどこにも落ちていないのだ。

だからこそ自分たちが、答えを作らなければならない。
それがどれだけ困難なことか、今更ながらに思い知らされる。

ブリッジを出て行ったユウナとキマリを追って、ティーダもその場から離れた。
残ったメンバーは円になって話し合う。

「うーん……ユノ、何か思いついた?」

「えぇっと……シンはジェクトさんで……その意識はまだどこかに残ってる、んですよね?」

「ああ。といっても、それもいつまで保つかわからんがな」

「シンのことは、俺も全然、わかんないですけど、ジェクトさんのことなら……ティーダなら、何か、わからないかなぁ」

「ジェクトさんのこと?」

「何か、えっと……その、言い方悪いかもしれないんだけど……なんていうか、弱点、とか……」

「身体的な弱点は効果ないんじゃねぇか? あの体じゃあなぁ……」

「じゃあ精神的なものは?」

「精神的って、余計想像つかねーな……」

確かにあのジェクトさんに弱点など、自分の頭では全く想像できないのだが。
彼も人間なのだから、何か1つくらい弱みがあるんじゃないだろうか。

やっぱりこういうことはティーダに聞いたほうが早い気もするが、正直、聞くのは憚られた。

(今はシンでも……ティーダのお父さん、なんだよなぁ……)

見ている限りでは、ティーダに落ち込んでいる様子はなかった。
けれどそれが、強がりでないとは思えない。

彼もきっと、どこかユウナと同じ。
悲しいことや苦しいことは、表には出さないのだろう。

(大丈夫? なんて声かけたら、余計気遣わせちゃうかな。きっと今頃ユウナのところだろうし、邪魔しないほうがいいよね……そういえば、アーロンさんも何処行ったんだろう?)

いつの間にか姿がなくなっているその人を探して、ユノもブリッジを出る。
探し人は扉のすぐ向こう、昇降機に続く通路に1人佇んでいた。

アーロンはユノに気付いた瞬間、珍しく少し慌てた様子で何かを懐に入れて隠す。

「……どうした?」

「え? あ、いえ、その、どこ行ったのかなって思って……あ、別に何か用があったわけじゃなくて、その……」

しまった、これではまるでストーカーだ。

なんで追いかけてきてしまったんだろうと、衝動的に取った行動を今更悔いる。

「名案でも浮かんだか」

「……ごめんなさい」

「謝る必要はない。そう易々と浮かぶ物でもないからな」

「……アーロンさん」

「何だ」

「……俺達がシンを倒すのは、スピラのためで、皆のためで……皆が笑顔になるため、ですよね?」

「まあ、結果的にはそうなるだろうな」

「その皆には……ティーダも、ちゃんと、含まれてるんでしょうか……」

シンを倒すことは自分の望みで、スピラの皆の望みで。

けれどティーダにとってそれは────

「!? わっ」

ユノの髪をわしゃわしゃと撫で回して、相手はやれやれと襟の奥で微笑混じりの溜息を溢す。

「……それはあいつが決めることだ」

ボサボサになった頭を抑えながら、アーロンのその言葉を何度か胸の内で繰り返す。

「……そう、ですね」

ティーダはティーダで、色んな思いがあって、考えがあって、それを踏まえた上で今ここに居る。
シンを倒すことで彼がそれをどう受け止めるのかを、自分が杞憂しても意味はない。

自分に出来ることは、せめて彼の負担を減らすこと。シンを倒す方法を見つけることだ。

「……よし、もう1回、考えてきます」

「ああ」

そういえば、さっき何を隠したんだろう?

なんとなく気になって、ブリッジに戻ろうとした足を止める。

「……アーロンさん、あの……」

けれど隠したということは、自分に見られたくないようなものなのだろうか。
そうだとしたら、自分がそこまで踏み入っていいのか?

「どうした」

「えっと……なんでも、ない、です」

まあ、いいか。
アーロンさんなのだから、別に危ない物でもないだろうし。

そう無理やり自分を納得させて、ユノはさっさとブリッジに戻った。


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