銘々の明晰夢
□5.夢の跡 君は彼方へ
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「……ごめん、ごめんね」
「いいって」
気が済むまで泣いた後、ユノはずびずびと鼻を啜りながら、赤くなった目を服の袖で擦る。
「……あの、ね」
「うん?」
「俺、今はまだ全然頼りなくて、弱くて、ダメダメで、なにも出来ないけど……強くなる。ずっとずっと、ティーダにも負けないくらい、強くなる」
情けなく緩んだ顔を引き締めて、ユノは真っ直ぐにティーダを見詰める。
「強くなって、ユウナのこと守るよ」
ティーダは、笑っていた。
そして嬉しそうに、少しだけ寂しそうに、「そっか」と呟く。
「ありがとな、ユノ」
「うん。あとね、ティーダに、お礼ちゃんと言いたい」
「お礼?」
「俺もこの旅で、大事なもの、沢山気付けた、沢山出来たよ。だから、ルカでのあの時、俺のこと連れ出してくれて、本当に……」
ユノはティーダを見習って笑う。
きっとティーダよりは、ずっとへたくそだろうけど。
「本当に、有難う」
ティーダは笑っていた。
でも、「俺のほうこそ」と返してくれたその声は、僅かに震えていた。
「……っよし、明日ぜってーシンをぶっ倒す!」
「うん!」
「ってことで、今日は解散!」
「あ、待って」
「なんだよ〜」
そこは乗れよと落胆するティーダに笑いながら、ユノは部屋のベッドに上がる。
「俺も、今日ここで寝ちゃ駄目?」
「へっ?」
「今は、一緒に居たいから」
きっともう、ティーダと一緒に居られる時間は少ない。
彼が消えてしまうことが避けられないのなら、その時が来るまでは、少しでも彼の傍に居たい。
「しょーがねーなぁ」
「えへへ、ごめんね」
「……ユノはアーロンのとこに行った方がいいと思うんだけどな」
「ん? なに?」
「……なんでも!」
「……ユウナにはさ、言わないの?」
「うーん……言っちゃうとさ、ユウナ、泣かせちゃいそうでさ。ほら、現にユノは泣かせちゃったし」
「うっ……でも、ユウナは、俺とは違うと思うよ」
「どうかなぁ……ユウナとユノって、結構似てるとこあるし」
「え、全然似てないよ」
「なんだよ、ユウナに似てるの不満か?」
「まさか! そうじゃなくて、ユウナが俺なんかに似てるなんてそんな……!」
「冗談だって! ……でも、俺なんか≠チて、もう言うなよな」
「……ん、ありがと」
「おっし、んじゃもう寝るぞ!」
「うん、おやすみ」
すぐ近くに感じる彼の呼吸を、心に、記憶に刻んで眠りにつく。
その日見た夢の中では、シンの居なくなった平和な世界で、ユノは皆と一緒に笑い合っていた。
勿論、ティーダも一緒に。
「いよいよってわけだな」
朝日に照らされ、空が澄み渡る青に染められる。
出撃準備を済ませた一行は、ブリッジに顔を揃えていた。
「シンの中にエボン=ジュってのがいるんだ。そいつを倒す」
「ずいぶん単純な答えじゃねぇか」
「フクザツじゃなくて良かったろ」
「そりゃそうだ」
「んで、アレ頼むよ!」
「おう、アレだな?」
リュックに指示されたシドが、タッチパネルを操作する。
すると艦内に、祈りの歌が流れ始めた。
「どうだ」
「バッチリ!」
「空飛ぶ船が歌う……か」
「あとはみんなが歌ってくれればいんだけどな」
期待に満ちた声で、下界を見ていたワッカが漏らす。
寺院の女性は、ちゃんとスピラ中の人々にこのことを伝えてくれただろうか。
「シン!」
スクリーンに映し出されたその姿を、皆が見やる。
シンは静かに、ゆっくりと、飛空挺に向かって来ていた。
「おっし、行くぞ!」
「どうやってシンの中に入るんだ?」
「一番単純な方法しかないッス」
「だね」
「じゃ、行きましょう」
「おい! 何やらかすってんだ!?」
「口から入るかシンの体に穴あけるか、どっちかだな!」
ティーダの言葉に、シドは一瞬ぽかんとして大笑い。
馬鹿にした笑いではなく、心底面白そう、といった笑いだ。
「そりゃまた、どえらい作戦じゃねえか!」
「トタギ、ワエムユアトフゲ!」
「おう、アレだな!」
「アレか!」
「おうよ! 風穴あけてやっからよ、そっから飛び込め!」
「うっす!」
「気をつけろなんて言わねえ。思いっ切り、やってこい!」
「うっす!!」
シドたちに見送られて、一行は甲板へと走る。
外に出ると、再び祈りの歌が聞こえた。
この飛空挺から流れているものではない。
地上の、スピラ中の人たちが歌う祈りの歌。
「聞こえるよ! みんな歌ってくれてる!」
「……本当だわ」
「すごい……」
こんな遥か上空にまで届くほどの歌声。
それはとても綺麗で、とても勇気付けられるものだった。
「期待に応えるッス!」
ティーダは1人甲板の隅まで歩くと、懐から何かを取り出した。
それは1つのスフィア。
「ユウナ、これ、もういらないだろ?」
「あっ!?」
ユウナはうろたえた様子で、自分の懐をまさぐっている。
どうやらあれは彼女のものらしい。
「いらないよな!」
返事を待たずに、ティーダはそれを放り投げた。
落ちていくスフィアとティーダを見て、ユウナは嬉しそうに頷く。
一体、何のスフィアだったんだろう?
「おいおいおいおい……何かやばいぞ!?」
その正体は分からないまま、ユノの意識はワッカの言葉に向いた。
前方に居るシンに、エネルギーが集まっている。
その衝撃に飛空挺は揺れ、皆が膝をついた。