銘々の明晰夢

□5.夢の跡 君は彼方へ
4ページ/14ページ


「……ごめん、ごめんね」

「いいって」

気が済むまで泣いた後、ユノはずびずびと鼻を啜りながら、赤くなった目を服の袖で擦る。

「……あの、ね」

「うん?」

「俺、今はまだ全然頼りなくて、弱くて、ダメダメで、なにも出来ないけど……強くなる。ずっとずっと、ティーダにも負けないくらい、強くなる」

情けなく緩んだ顔を引き締めて、ユノは真っ直ぐにティーダを見詰める。

「強くなって、ユウナのこと守るよ」

ティーダは、笑っていた。

そして嬉しそうに、少しだけ寂しそうに、「そっか」と呟く。

「ありがとな、ユノ」

「うん。あとね、ティーダに、お礼ちゃんと言いたい」

「お礼?」

「俺もこの旅で、大事なもの、沢山気付けた、沢山出来たよ。だから、ルカでのあの時、俺のこと連れ出してくれて、本当に……」

ユノはティーダを見習って笑う。
きっとティーダよりは、ずっとへたくそだろうけど。

「本当に、有難う」

ティーダは笑っていた。

でも、「俺のほうこそ」と返してくれたその声は、僅かに震えていた。

「……っよし、明日ぜってーシンをぶっ倒す!」

「うん!」

「ってことで、今日は解散!」

「あ、待って」

「なんだよ〜」

そこは乗れよと落胆するティーダに笑いながら、ユノは部屋のベッドに上がる。

「俺も、今日ここで寝ちゃ駄目?」

「へっ?」

「今は、一緒に居たいから」

きっともう、ティーダと一緒に居られる時間は少ない。

彼が消えてしまうことが避けられないのなら、その時が来るまでは、少しでも彼の傍に居たい。

「しょーがねーなぁ」

「えへへ、ごめんね」

「……ユノはアーロンのとこに行った方がいいと思うんだけどな」

「ん? なに?」

「……なんでも!」

「……ユウナにはさ、言わないの?」

「うーん……言っちゃうとさ、ユウナ、泣かせちゃいそうでさ。ほら、現にユノは泣かせちゃったし」

「うっ……でも、ユウナは、俺とは違うと思うよ」

「どうかなぁ……ユウナとユノって、結構似てるとこあるし」

「え、全然似てないよ」

「なんだよ、ユウナに似てるの不満か?」

「まさか! そうじゃなくて、ユウナが俺なんかに似てるなんてそんな……!」

「冗談だって! ……でも、俺なんか≠チて、もう言うなよな」

「……ん、ありがと」

「おっし、んじゃもう寝るぞ!」

「うん、おやすみ」

すぐ近くに感じる彼の呼吸を、心に、記憶に刻んで眠りにつく。

その日見た夢の中では、シンの居なくなった平和な世界で、ユノは皆と一緒に笑い合っていた。

勿論、ティーダも一緒に。








「いよいよってわけだな」

朝日に照らされ、空が澄み渡る青に染められる。

出撃準備を済ませた一行は、ブリッジに顔を揃えていた。

「シンの中にエボン=ジュってのがいるんだ。そいつを倒す」

「ずいぶん単純な答えじゃねぇか」

「フクザツじゃなくて良かったろ」

「そりゃそうだ」

「んで、アレ頼むよ!」

「おう、アレだな?」

リュックに指示されたシドが、タッチパネルを操作する。
すると艦内に、祈りの歌が流れ始めた。

「どうだ」

「バッチリ!」

「空飛ぶ船が歌う……か」

「あとはみんなが歌ってくれればいんだけどな」

期待に満ちた声で、下界を見ていたワッカが漏らす。
寺院の女性は、ちゃんとスピラ中の人々にこのことを伝えてくれただろうか。

「シン!」

スクリーンに映し出されたその姿を、皆が見やる。
シンは静かに、ゆっくりと、飛空挺に向かって来ていた。

「おっし、行くぞ!」

「どうやってシンの中に入るんだ?」

「一番単純な方法しかないッス」

「だね」

「じゃ、行きましょう」

「おい! 何やらかすってんだ!?」

「口から入るかシンの体に穴あけるか、どっちかだな!」

ティーダの言葉に、シドは一瞬ぽかんとして大笑い。
馬鹿にした笑いではなく、心底面白そう、といった笑いだ。

「そりゃまた、どえらい作戦じゃねえか!」

「トタギ、ワエムユアトフゲ!」

「おう、アレだな!」

「アレか!」

「おうよ! 風穴あけてやっからよ、そっから飛び込め!」

「うっす!」

「気をつけろなんて言わねえ。思いっ切り、やってこい!」

「うっす!!」

シドたちに見送られて、一行は甲板へと走る。
外に出ると、再び祈りの歌が聞こえた。

この飛空挺から流れているものではない。
地上の、スピラ中の人たちが歌う祈りの歌。

「聞こえるよ! みんな歌ってくれてる!」

「……本当だわ」

「すごい……」

こんな遥か上空にまで届くほどの歌声。
それはとても綺麗で、とても勇気付けられるものだった。

「期待に応えるッス!」

ティーダは1人甲板の隅まで歩くと、懐から何かを取り出した。
それは1つのスフィア。

「ユウナ、これ、もういらないだろ?」

「あっ!?」

ユウナはうろたえた様子で、自分の懐をまさぐっている。
どうやらあれは彼女のものらしい。

「いらないよな!」

返事を待たずに、ティーダはそれを放り投げた。
落ちていくスフィアとティーダを見て、ユウナは嬉しそうに頷く。

一体、何のスフィアだったんだろう?

「おいおいおいおい……何かやばいぞ!?」

その正体は分からないまま、ユノの意識はワッカの言葉に向いた。

前方に居るシンに、エネルギーが集まっている。
その衝撃に飛空挺は揺れ、皆が膝をついた。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ