銘々の明晰夢

□5.夢の跡 君は彼方へ
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シンが生み出す重力場の嵐、それは大気圏外にすらも影響を及ぼす。
引き寄せられていたものが一気に放出され、その力は陸を、空を、海を、全てのものを抉った。

まるで時が止まったかのような静寂。
そして次の瞬間、傷つけられた大地が悲鳴を上げるように爆発を起こし始める。

大崩壊の余波で皆が吹き飛ばされた。
飛空挺の船体に体が叩きつけられて、短い嗚咽が漏れる。

顔を上げれば、すぐそこにシンは居た。
ティーダはそれを、色んな感情の入り混じった顔で見つめる。

「くそオヤジ……」

『おい! シンの腕ん所、光ったの見えたか? ありゃ絶対なんかあるぜ!』

飛空挺内からのシドの声と共に、再び衝撃が襲った。
安定しない足場でなんとかして体勢を立て直す。

『ヤブミ!』

『ゴフキサァ!』

『シンシリチモヘナエセンガ!』

「シンに引き寄せられてるって!」

『おまえら中に戻れ!』

それに従おうにも、シンはもう目の前まで迫っていた。
逃げられる状況ではない、皆は仕方なく武器を手に取る。

眼前にあるシンの左腕にはシドの言う光の正体があった。
そのコアを標的に絞って、間合いを取りながらひたすら叩く。

『試しに一発かましてやらぁ! おまえら、そこで待機してろ!』

コアの光が弱まったところで、飛空挺はシンとの距離を開いた。

『行くぞ!』

飛空挺の主砲が火を吹き、見事コアに直撃。
左腕は吹き飛ばされ、大量の光を噴出しながら地上へと落ちていく。

「やった!」

「あ、でも、あんなもの落ちたら、地上の人が……」

「だいじょぶだいじょぶ、下は海だよ」

『おっし! この勢いで反対側もやっちまうぞ!』

「勝手に決めるなあ!」

飛空挺は反対側へと回り込み、今度は右腕のコアを破壊。
再び発射された砲撃に、右腕もシンの体を離れて落下していった。

『おっし! 次はどこだ!?』

『……トカニガ』

『ワロスアヘ! ヨエアナギャメネア!』

『ガッセ、キュロフズッヨカエヒヤッサモ!』

『ハンガソ!?』

飛空挺内から聞こえてくる声に、通訳を求めてリュックの方を見ると、彼女は至極残念そうに言った。

「主砲、壊れたってさ……」

『仕方ねえ、おまえら戻れ! 作戦練り直〜し!』

「いーや、行くッス! 勢いがあるときは勢いに乗るッス! これ、ブリッツの鉄則!」

ガッツポーズをして気合十分のティーダは、大胆にも甲板からシンへと飛び移る。

彼を見ていると、何にも負ける気がしない。
こんな状況なのに、その様子を見ていると自然と笑みが零れた。

「行くぞ」

「はい!」

アーロンが差し出してくれた手を掴んで、ユノは彼と一緒に甲板を飛び出す。

無事シンの背中に着地して、そこにある最後のコア目掛けて全力を叩き込んだ。

「よっしゃ!」

「って、おい、このままじゃ落ちるぞ!?」

『トヤネナ ラッラソソヂフユエ!』

「飛び移れって!」

「了解ッス!」

コアを破壊されたシンの巨体が傾き、ゆっくりと落下を始める。

横付けされた飛空挺に仲間が次々と飛び移る中、ユノは自分の脚力で足りるのか不安でもたついていると、アーロンに抱きかかえられた。

「わっ!」

「早く早く!」

アーロンの足がトンとシンの体を蹴って、甲板へと舞い戻る。
シンは欠落した両腕の付け根から光を撒き散らしながら、ベベルへと墜落した。

「あ、あああありがとうござい、ます」

「ああ。……ところで、いつまで抱きついているつもりだ?」

笑っている相手の言葉にハッとして、ユノは慌てて両手を離す。
仲間達はベベルから立ち上る煙が収まるのを見ると、ブリッジへと戻っていった。

「ご、ごめんなさい!」

「俺は別に構わんがな」

「えっ、え、え?」

「戻るぞ」

これは、完全に弄ばれている。
楽しそうにするアーロンを、赤くなったユノが悔しげに睨む。

前までは何とも無かったことでも、今は違う。
アーロンの言葉や仕草の一つ一つに、心臓が忙しなく音を立てる。

それはとても厄介なことで、けれどとても幸せなことだと思えた。

「リュック! タッサハ!」

「復活……するかな?」

「多分な」

「なんでえ!? そうなのかよ!」

「シンの中に居るヤツを倒さなくちゃならない」

「これだけで倒せたら、討伐隊だって苦労しねえよな」

「でも、シンを弱らせたのは確かじゃない?」

「そうだよそうだよ!」

あくまでもことを前向きに捉える一行に、落胆していたシドも気を取り直して主砲の修理に取り掛かる。
それが終わるまでの間は、それぞれ自由に過ごすことにした。


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