家族のカタチ
□1.始まりの神託
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「……き、……にき」
徐々に視界が黒に覆われ、目の前にあった光景が消える。
それに反比例して、聞こえる声は徐々に大きくなっていく。
「──兄貴! 起きろってば!!」
完全に消えた景色を脳に焼き付けたまま、カーノはゆっくりと目を開いた。
そこにあの惨状はなく、代わりに見慣れた顔がしかめっ面で現れる
「何回呼べば起きるんだよ? 俺もう学校行くぞ」
「……おぉ、悪い。──ちょっと待てすぐに支度する!!」
一気に覚醒した脳が素早く状況を理解し、ベッドから跳ね起きて慌ただしく支度を始める。
そんな兄の様子を、ロイドはため息混じりに目で追った。
シルヴァラントの中にある小さな村イセリア。その近くに建つ一軒の木造の家。
そこから出てきたのは茶色い髪を立たせて、襟に着いた白い帯のような飾りを風に靡かせる少年と、先程起きたばかりで急いで着替えたせいか、まだ少し寝癖の残る髪をなんとか整えようと指で割く青年。
二人はフルスピードで村へと向かい、門の前に立つ男に軽い挨拶をしてそこを潜り抜けた後、始業を告げるチャイムが鳴り終わると同時に教室の床を踏んだ。
ぜぇはぁとすっかり荒くなった呼吸を繰り返してから、まず先に青年の方が顔を上げ、クラス中の視線を一身に受けながら、教壇の前に立つ女性に心底申し訳なさそうに言った。
「すみませんリフィルさ……先生。遅刻になりますか?」
対して、そんな謝罪を受けたリフィルはというと、目をいつもより少し大きく開き、朝のあいさつを述べようとした口を閉じるのも忘れて相手を見た。
「珍しいわね、何かあったの?」
その問いに、気まずそうに視線をさ迷わせ、再び「すみません」と口にするカーノ。
その意味を図りかねたリフィルが横に立つロイドに目を向けると、ロイドはまるで悪戯でも思い付いたような顔で答えた。
「兄貴が寝坊したんだよ」
「ばっ……ロイド!!」
分かりやすく顔を真っ赤にして慌てるカーノの反応に、ロイドは満足気に笑い、リフィルはそれが事実なのだと悟った。
「まぁいいわ。ロイド、早く席について」
「お、お咎めなし? まぁ兄貴のせいだし当たり前か」
その言葉に返す事も出来ず、カーノは只々俯きながら入れそうな穴がないものかと現実逃避気味に考えた。