家族のカタチ
□6.共鳴する傷痕
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ショコラ達に別れを告げ、町を出て再び峠を目指していた一行は、途中救いの小屋という小さな建物で休憩を取ることにした。
東奔西走し疲れていた面々は椅子に座り足を休める。が、クラトスだけは座ろうとせず壁に寄りかかるだけだった。
それが早く先に進みたいという相手の意思表示なのだと知りながらも、「疲れないのか」と立ち上がり隣に移動すると、相手は黙ってその目に自分を写した。
「…先程の判断は同意しかねるな。」
自分から話しかけた時こいつはいつも別の返事を返すなと苦笑しながら、「何が」と返す。
「真実を話したところでどうにもならんが、だからと言って自らの罪を隠し、責め苦から逃れさせるのは本人の為にならんぞ。」
その言葉に、ああ町での話かと理解し、同時にそれは解ってるよと心中で返す。
「アンタの言う通りだな。」
「ならば何故言わなかった?」
それには答えなかった。代わりに自嘲気味な笑みを溢すと、相手は思考が読めたのか溜め息をついた。
「……おまえは私と同じタイプだと思っていたが、どうやら違った様だな。」
外衣を翻し部屋を出るクラトスに、カーノは何も言わずその背を見送った。
そして数分後、思いの外早く帰ってきたクラトスは面倒臭そうな顔を引っ提げて言った。
「あの娘が拐われたそうだ。」
あの娘、とはショコラのことであると推測された。それを助け出して欲しいと総督から言伝てを預かった町民が、出歩いていたクラトスを見て話しかけたらしかった。
早すぎる不報の再来に一同は絶望した。軽くなったばかりの肩がまた重くなる。まさかこんなに早く第二撃が来るなんて。
「助けてあげようよ!!」「ああ!!」と話を進めていく少年少女に心身共に疲れを癒しきれて居ない皆が混ざる。そういえば、と大事な事を聞き忘れていたカーノは隣にいる傭兵を見た。
「何処に連れていかれたんだ?」
助けに行くなら場所くらい知っておきたいんだが、伝言を運んできた町民から聞いてるか?と問う。
クラトスは頷いて、人づたいに総督から言われた言葉を吐いた。
「パルマコスタ人間牧場だ。」
一同が此方を振り返る。今聞いた言葉に最悪の展開が頭上に浮かぶ。
コレットやリフィルは口に手を当て眉を下げ、ロイドは怒り掌に爪を食い込ませた。
牧場に連れていかれた者がどうなるかなど、誰もが知っていた事だった。少年2人に至っては数日前その末路を自らの目で見たばかりなのだ。非道を許さないロイドが怒りに震えるのは当然だった。
だがそれとは別の理由で、カーノは震えそうになる体を必死に抑えた。口内の唾を飲み込み、動揺を悟られぬよう俯く。
最悪だ、と彼は思った。彼女が連れていかれたのはもちろん、これから自分達がそこに向かわなければならない事も含めて。
極力近付かない様にしていたのに、こんな形で行くことになるなんてと、カーノは歯を食いしばった。
「どの辺にあるんだ!?」
「ここから西にある山の裏だそうだ。回り込めば行ける。」
「よし、行こう!!」
返事を待たずに小屋を飛び出すロイド。
皆がそれに続く中、動こうとしないカーノにクラトスが足を止めた。
「……どうした?」
「…いや、何でもない。」
いつもよりぎこちない笑いを貼り付け横を通りすぎる相手を、クラトスは不思議に思いながらも追いかけた。
平地を駆け抜け牧場までやって来た一行は、嫌な雰囲気の漂う建物に顔をしかめた。
「同じだ…イセリアと……」
地形以外ほとんど同一のそれを見て、良くない思い出を掘り起こす。
敵に注意しながら敷地内に入ると、木々に囲まれた暗がりから1人の男が出てきた。
その顔には見覚えがあった。確か総督府に立ち寄った時、ドアの隣に控えていた男だ。ニールと呼ばれていた気がする。
そしてその口から出たのは恐るべき真実だった。彼はそれを伝える為に待っていたのだろう。皆の顔が次第に険しくなる。
町を守っていると思っていた人物は、裏でディザイアンと手を組んでいたのだ。全てを聞き終えて、どうしてそんなこと…とコレットが悲しげに呟く。
「…どうするんだ?ロイド」
救出要請を出してきた総督が敵側であるのなら、この先待ち構えているのは罠かもしれない。一度パルマコスタに戻ってドアを問いただした方がいいのではないかと提案したが、その間にショコラに何かあったら来た意味がないと正面突破を決め込んだ。
止めても聞かない彼の性格を熟知しているカーノは、仕方なくそれに付き合う事にした。
牧場に入りたくはないが、ロイドから目を離す不安よりはマシな筈だと自分を無理矢理納得させて。
忍ぶという言葉を知らないロイドが敵をなぎ倒していくのを見ながら、カーノは施設に続く道についた少年の足跡を辿った。