家族のカタチ
□6.共鳴する傷痕
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もう何人目になるかわからない敵を倒し、ワープフロアが幾重にも続く複雑な道を進むと、人々が収容されている牢屋へと辿り着いた。
鉄格子を開けると中から何十人もの人の塊が出てきて、流れるように出口へとひた走る。
「有難うお兄ちゃん!!」
こんな小さな子供まで捕まえるのかとディザイアンの悪事に苛立ちながら、礼を言う幼い少年の頭を撫で早く逃げるよう促した。
そういえば俺もあんなんだったなと走り去る小さな体に自分を重ね、すぐに頭を振った。
(違うな…、
俺はあんな風に笑ってなかったか。)
どちらかといえばロイドに近いかな、と助け出した少年より10は年上の少年を見やる。彼は休む間もなく次の部屋に向かう。
元気なのはいいが気を付けてくれよと、先を行くロイドに声をかけながら空になった牢屋を後にした。
そしてワープの終着点で、漸く敵に連行されているショコラに遭遇した。
両脇に立つ兵士を蹴散らし、怪我はないかと駆け寄る。
「大丈夫。
…こんな所まで来てくれるなんて思ってなかったわ。」
まさか私に惚れてるの?と冗談めかして言うショコラにカーノが顔を赤らめ、驚いたショコラにロイドが慌てて説明に入る。
一気にいつものテンションに戻った一行だったが、まだやる事は残っていた。
今ここに居る人を助けても、この施設がある限りまた同じことが起こる。だからどうせなら潰してしまおうというリフィルの発言に入り口で賛成していた為、ショコラを連れ管制室へと向かう。
そこには騒ぎの首謀者であろうマグニスが当たり前に居て、相変わらず偉そうな態度で此方を見下した。
観念しろと剣先を突きつけるロイドに、マグニスはショコラへと視線を移した。
「いいのかショコラよぉ?そこに居るのはお前の祖母であるマーブルを殺した男なんだぜぇ。」
そして突然そんな事を言われたものだから、ロイドは思わず剣を下ろしてしまった。
「……うそ、そんな訳…!!」
「嘘だと思うなら本人に聞いてみな。
なぁロイド?」
信じられないといった面持ちでロイドを見るショコラ。ロイドは何も言えずただ俯く。
「……本当、なの?」
「………黙っててゴメン。」
「違っ、お前は…!!」
ただ暴走した彼女を止めようとしただけだと、叫んだ言葉はクラトスの手に遮られた。
「…そんな奴らに助けて貰うくらいなら、死んだ方がマシよ!!」
ショコラはこれ以上ない程の厳しい言葉を吐いて、自らディザイアンについて行ってしまった。
ロイドを傷付けたくなくて取った行動のせいで、余計に彼を傷付けてしまった。カーノは自分の判断を全力で後悔した。
だが傷心の2人を待ってくれる程敵は優しくなく、寧ろロイドをあざけ笑ったマグニスは斧を横に払った。
意識はついていかなくても体に刷り込まれた動作というのは見事なもので、ロイドを狙ってきた攻撃にカーノは無意識にロイドの腕を引っ張りそれをかわさせた。
「……ごめん。」
「…何で兄貴が謝るんだよ。」
掴んでいた手を離し、落ち込むロイドに謝罪しても、負い目が晴れるわけでもなく。敵前で棒立ちになるカーノをクラトスが叱咤する。
「落ち込むのは後にしろ!!」
その声に意識を取り戻したカーノの目前には、マグニスの斧が迫っていた。
「――っ、」
咄嗟に身を屈めてそれを避けるが、頭上を通過した刃はそのまま下に下りてきた。
攻撃を受け止めようにも自分は盾など持っていない。代わりになりそうな剣もないし、唯一背負っている銃では斧を受け止めるのは不可能だ。下手をすれば銃が壊れる。
よって、カーノは屈んだ状態からそのまま横に転がって緊急回避を取った。降り下ろされた斧は地面に落ちる。
だが攻撃を回避出来たのもそこまでだった。転がった状態から起き上がっても直ぐに動ける程彼の体は鍛え上げられていなかった。迫る刀身をかわしきれずカーノは攻撃をくらってしまう。
「………っ!!」
「兄貴!!」
切り口からは血が滴り落ち、よろめく体を腕で支える。感じる痛みや血の量から軽傷ではないなと顔を歪める。
「先生!!回復を…」
「いいから!!
先に…アイツを……!!」
心配するロイドと術をかけようとするリフィルを止め、クラトスと交戦するマグニスへと向かわせる。
自分で応急処置だけでもしようと痛みを堪え詠唱に入る。少しはマシになった痛みに膝立ちになり銃を構え、ロイド達に加勢しなんとかマグニスを撃破した。
そうして目的を達成した一同は、牧場の自爆装置を起動させ外に出た。派手な轟音と共に崩壊する牧場を背にパルマコスタへと向かい、総督府に乗り込む。
歩く度に治りきっていない傷から鋭い痛みが走ったが、怪我の心配をしてくる皆には「自分で治したから大丈夫だ」と、余計な負担をかけぬように隠した。
ドアがディザイアンに加担していた理由は地下牢にあった。牢に入っていたのは一体のエクスフィギュアで、それをドアは自分の妻だと言った。彼女もまたマーブルと同じようにエクスフィアを暴走させられこうなったのだろうとロイド達は理解し、ほんの少しドアに同情した。しかしそれでも相手のしてきた事は許されるものではない、例えそれが妻を元に戻す為だったのだとしてもだ。
「あんたはそうやって他の人を同じように苦しめたんだ…!!」
コレットに励まされ少しは立ち直ったロイドが悲痛な声で言う。
それでも素直に謝ろうとしないドアに、異形へと変貌した娘が切りかかった。
それは娘に化けたディザイアンの手下で、急所を刺されたドアはその場に倒れ込んだ。
敵を倒して駆け寄ったロイドはリフィルを見るが、相手は首を振った。もう間に合わない、という意味を込めて。
「む、娘は…?」
瀕死のドアは自分の娘が偽物だった事を知り、本物を探す。
だが先ほど倒した敵は、本物はとっくに病で倒れ亡くなっていると言っていた。ロイドは悩んだ末に、無事に生きてるよと答えた。
安心し微笑むドアは悪者には見えず、彼も被害者の1人なのだと皆は感じた。
そしてそんな中カーノだけは、ずっと視線を床に落としたままだった。