家族のカタチ
□6.共鳴する傷痕
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その日の晩、パルマコスタで一泊することになった一行は、疲れが溜まっていた事もあってすぐに宿に入っていった。
当たり前のようにリフィルとジーニアスが同室になり、ロイドとカーノ、クラトスとコレットと続く筈だった部屋割りは、カーノの発言で難航することとなった。
「……悪い、クラトスと話があるから」
一緒にしてくれ、というその言葉は皆に衝撃を与えた。ロイドは気にした様子もなく了承したが、他のメンバーは「あのカーノが」と常々ロイドの側を離れない青年を信じられない目付きで見た。そしてご指名を受けたクラトスは話というのに思い当たる節がなく一体何なんだと訝しげに相手を見た。
意義を唱える者が居なかったので、部屋割りはカーノが望んだ通りとなり、中に入ってドアを閉めたところでクラトスは「何の用だ」とベッドに腰を下ろす男に聞いた。
「………ごめん。」
開口一番、珍しく会話のキャッチボールを無視したカーノは謝罪を述べた。それが何に対してなのか解らず今日一日を振り返って、謝られるような事はなかったが1つ気になることがあったなと思い口を開いた。
「……牧場でのあれか?」
それはマグニスと戦っていた時の事で、随分落ち込んでいたカーノに、あぁあれはパルマコスタでの自分の行いに悔いているのだろうな、と考察していた事を思い出す。
もしやそれを引き摺っているのか、それでさっき自分と同室がいいと言ったのかと、クラトスは何も言わない相手に結論を出した。
つまり自分に話があるというのは建前で、本当はただロイドと同室になるのが気まずかったのだろう。それなら他の者でもいい気がするが、恐らくいつもと違う行動を取った自分を問い詰めてくると予想し、何も聞いてこないであろうクラトスを選んだのだ。
で、今の謝罪は「巻き込んで悪い」という意味か。とそこまで予測を立てたクラトスは、剣を外し壁に立て掛け、空いている方のベッドに腰を下ろした。
「……気に病んでも仕方がないだろう。」
そしてそんな言葉をかけた。相手は思考を読まれた事に驚き目を丸くしている。
「パルマコスタで真実を言っていたとしても結果は同じだった筈だ。
それが少し遅れただけだろう。」
過ぎた事を嘆くなと言えば、カーノはまた項垂れた。
「……こうして落ち込んでても仕方ない事は分かる。
でもアイツは少なくとも俺のせいで余計辛い目にあったんだって考えたらな、アイツと話すのがなんか………申し訳なくて。」
一向に顔を上げようとしないカーノに、それは確かにそうかもしれないが、その差は僅かなものではないのか、そもそもカーノの指示がなくとも、ロイドは黙っていたかもしれないのに、何もそこまで落ち込む必要があるのかと、クラトスはため息をついた。
(まぁ…それだけ大事に思っているということなのだろうな。)
戦う時も道を歩く時も、彼はいつもロイドを気遣っていた。それこそ24時間ずっとと言っても過言ではないぐらいに。
彼が本当にロイドの兄なのかという問題は置いておくとしても、その様は家族のようだとクラトスは思った。
「…ならば、次に間違わぬようにすればいい。
そうして下を向いたままでは、また同じ過ちを繰り返すぞ。」
何もない空間を見るカーノにそう言って立ち上がる。
後は1人で考えろと行動で示したクラトスに、漸く顔を上げたカーノが慌てて立ち上がりその腕を掴んだ。
「待っ……、
…俺が出ていくから。」
掴んだ瞬間、カーノは眉根を寄せ息を詰めた。
不自然に途切れた言葉にクラトスが振り返ると、腕を掴む男の脇腹に血が滲んでいた。
そこはマグニスと戦った際傷を受けた場所だった。軽い治癒術しかかかっていなかったそこは移動や総督府での戦いで開いてしまっていたのだ。
「…っ、悪い。」
「………いや、それは構わんが、」
腕を掴む手に力が篭り、謝るカーノの顔には汗が浮かんでいる。それらは怪我の酷さを物語っていた。
「…看てもらった方がいい。」
「いや…でも、
リフィルさんも…疲れてるだろうし……」
息苦しそうに言葉を切って話すカーノに、気の回しすぎだと呆れる。
怪我が悪化して足手まといになられては困ると、渋るカーノを半ば強引に教師の元へと連れていった。