銘々の明晰夢
□3.悲しみと引換の活路
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「あ! みんな〜!!」
ユノとユウナがアルベドのホームで休んでいる頃、湖のほとりにはガード達が全員集まっていた。
最後に合流したリュックがティーダたちに笑顔でぶんぶんと手を振る。だがすぐに異変に気付いた。
「ユウナとユノは?」
「いない」
「最悪。ガード失格だわ」
護るべき者を欠いたガードたちは心のうちで自分を責める。
そんな一行に、リュックは神妙な声で話を切り出した。
「えっと……話したいことがあるんだけど、何も言わずに聞いてくれる?」
「…………」
「睨むのも禁止! この砂漠はビーカネルって島にあんのね。で、近くにアルベド族のホームがあるんだ。ユウナとユノは多分そこにいる! あたしたちより先に、仲間が見つけて助けたんだよ!」
「助けたんじゃなくて、拐ったんじゃねえのか?」
「2人が無事ならどっちでもいいだろ!」
相変わらずアルベドに敵意を向けるワッカに、焦るティーダが怒鳴り、ワッカは仕方なく口を閉ざした。
「で、みんなをホームへ案内したいんだけど……ホームのことはナイショにして欲しいんだ。特にエボンの連中にはヒミツってことで! アルベドは寺院に嫌われてっからね、バレたら何されるか分からないんだよ」
「寺院が何をするって? 人聞きの悪いこと言うなよ」
「昔、そういうことが本当にあったんだよ……」
「そりゃアルベドが悪いからだ!」
「今はさあ! どっちでもいいだろ?」
二回目。いい加減ブチギレそうなティーダに、ワッカは今度こそ反抗するのをやめた。
口外しないことを誓って、一行はリュックについて行く。
「にしても、2人ともよくこんな砂漠の中歩けたな。ユノなんかすぐ倒れちゃいそうなのにさ」
「暑さには慣れてるんじゃない?」
「それはねーだろ、あいつ肌白いし」
「ナギ平原まで行ったことがあるのだから、それだけの体力はあるんじゃないかしら」
談笑しながら進む──とはいえ足取りは全員いつもより速いのだが、居所の目星と無事でいる可能性が分かってさっきよりは不安の色が薄くなった一行の中で、1人険しい顔をしたままのアーロンにティーダが並ぶ。
「そんなに心配ッスか」
「フッ、お前に言われたくはない」
「そりゃ、そうだけど……あんたがそんなに焦ってんのって珍しいよな」
「いつも通りだ」
「ふーん」
襲い掛かってくる魔物をいつもより怒気を孕んだ一撃で排除しながら、競歩レースさながらの一行は更に進んでいく。
ついに小走りになったリュックは、砂丘の向こうのホームを見つけた瞬間叫んだ。
「ああああ!?」
それは喜びの声ではなく悲鳴。
皆が丘を登ると、アルベドのホームだろう巨大な機械建造物から黒煙が上がっていた。
空と地上に魔物の姿が見え隠れし、断続的に銃声が聞こえてくる。
「あそこに2人が居るってのか!?」
リュックが真っ先に駆け出し、仲間も急いで追いかける。
リュックを追い抜いたティーダを、更にアーロンが追い抜いた。
「……っどこがいつも通り≠セよ!」
全力で走る相手に、ティーダも負けじと足を動かした。
「すごい……広い、ですね。」
少し前。アルベド族の男性に連れて来られたユウナとユノがホームの中に入ると、そこには機械があちこちに設置されていた。
ワッカのようなエボン側の人間が見れば卒倒してしまいそうだ。
「だろ? ここまで立派なもんが出来たのも、俺たちがここに住めるのも、シドの親分のおかげだ」
「シドの親分さん?」
「リュックの親父さんで、ここのボスみたいなもんだ。──トタズン! ショウカンシムユエセチサ!」
入り組んだ通路を通って広間に出ると、そこにいた1人の男がこちらを振り返った。
ガタイのいいスキンヘッドの男はこちらにやって来る。
「あれがその親分だ」
「ベアキサ、ゾルノフガッサハ。……ブミズントソハキミハ?」
「リュックオソコガヒナキミ」
「ほう、リュックのダチか。ってぇことは、アイツはまだ元気でやってるってことか」
「はい、リュックにはお世話になっています」
「そりゃ有難ぇこった。嬢ちゃん、名は?」
「ビサイド島の、ユウナと申します」
「そっちは」
「キーリカのユノ、です」
「ここは野郎ばっかでな、テメエらみてえな同姓の歳の近い話し相手ってのはなかなかいねぇ。仲良くしてやってくれ」
同姓。それは俺も入っているんでしょうか。
まぁ歳の近い男が一緒に旅をしていますと言うよりは安心できるだろうと、ユノはあえて訂正はせずに頷いた。
「ケヤック! ショウカンシオケタシユエセミッセタエ!」
「カアッサ!」
男に呼ばれ、二人はまた複雑な道を移動する。
道中、周囲には聞こえぬように、ユウナが小声で話しかけてきた。
「アルベドの人は、召喚士に旅をやめさせたいんだって」
「……それもリュックから?」
「うん。こうして召喚士を集めてるのは、旅をやめさせて召喚士を護るためなんだって」
「なるほど……そっか、うん、優しいんだね」
「ね、ユノはどうして、召喚士になろうと思ったの?」
あんまりカッコイイ理由じゃないよ? と前置いて、当時のことを思い出しながら語りだす。
「……素質があったんだろうって。俺は、分かってなかったけど。周りの人が言ってた。最初に召喚出来たのは、10歳くらいの時で……」
「10歳? すごいなぁ」
「でも召喚獣を初めて見た時は、怖くて動けなかったよ。そしたら、その日から、島のみんなが盛り上がっちゃって……」
神童だと崇められ、シンを倒す者だと祭り上げられた。
わけもわからないまま召喚士になって、わけもわからないまま旅に出ることになった。
「……なにも取り柄なかったから、召喚できたら、ちょっとは、認めてもらえるかなって……それだけのつもり、だったんだけど。幼馴染みが、自分達がガードになるから、一緒に頑張ろうって……そう言われて、断れなくて……なんか、情けない、よね」
「……そんなことないよ」
苦笑するユノに、ユウナが首を振る。
階段を下りて、3人は更に下へと進んだ。