銘々の明晰夢

□3.悲しみと引換の活路
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「……私もね、ちょっとだけユノに似てるの。召喚士になったのは自分の意思だよ、父さんの背中を見てて……私もあんな風になりたいって、そう思ったの。自分の力で、世界中の人を護れたら……笑顔にできたら、どんなに素敵だろうって。……でもほんとは、ちょっと……迷ってた。召喚士になるって言ったとき、ルールーとワッカさんは引き止めてくれて……すごく、嬉しかったの。嬉しいと思ったの。それで気付いたんだ、ほんとは誰かに止めてもらいたかったんじゃないかって」

ユウナも同じように苦笑する。ユノにはその気持ちが、痛いくらいに分かった。

「でも……そう、ユノと同じ。周りの人に父さんの、ブラスカの娘だからって期待されちゃって……今更やっぱりやめますだなんて、言えなかった。私がやらなくちゃ……他の人が同じ事をしなくちゃいけない。それも嫌だった。私にその力があるなら、自分がやらなきゃって……だから私、後悔はしてない。してないけど……」

ユウナはそこで少し言いよどんで、困ったなぁと眉を下げる。

「……ほんとのこと、言うとね? 最近またちょっと、ぐらぐらしてるんだ。彼に会ってから……、もし私が召喚士じゃなかったらって、考えるようになったの。こんなこと今まで、考えたこと無かったのになぁ……」

ダメだよね、と言うユウナは泣いてしまいそうに見えて、ユノはその手を両手で包み込む。

「……駄目なこと、ないよ。俺は、駄目だって言わない……言えないよ……」

自分も、似たようなことを考えた。

このままずっと、みんなと居られたら。
シンなんて忘れて、究極召喚なんて捨てて、ずっとずっと笑って過ごせたら。

自分の存在意義など、シンを倒すためのものでしかないのに。

「……このこと、みんなには言わないで。ここまでずっとガードとして一緒に来てくれた皆に……弱音なんて言えない。困らせたくない。これまでの日々を無駄にするようなことなんて、できない。村の人も……皆も……がっかりさせたくないんだ」

「……うん、それは……わかる」

「ユノと私だけの秘密、だよ?」

「……うん」

小指を差し出してくるユウナに自分のものを絡める。
今は悲しいことは忘れて笑っていようとする二人の耳に、突然警鐘が響いた。

「なんだ!?」

「エボンオセチキュフガ!」

建物が激しい揺れに襲われ、よろめくユウナを支えて手すりに掴まる。
あちこちから爆音と銃声が聞こえて、先導していた男が舌打ちする。

「悪いがあんたらは二人で急いでこの先へ行ってくれ!」

「あなたは!?」

「気にするな! この建物をエボンの奴なんかに壊させてたまるか……!」

「エ、ボン……!?」

これは、エボンがやっているのか。
震動と轟音は尚もおさまらず、言われたとおりに先へ進むが、どこから入ってきたのか知らない魔物が進路を塞いでいく。

召喚獣を駆使して突破していくが、安定しない足場と敵の数に苦戦する。
その上ユノは砂漠で一度召喚した分精神力の減りが早く、ユウナより先に力尽きた。

「ユウナ……ごめん、先に……早く……」

「ユノを置いていけないよ!」

「でも……これじゃ……」

「見つけました、召喚士です」

押し寄せる魔物の大群を割いて、ぞろぞろと男達がやって来た。
それはアルベド族ではない。見た瞬間ユノは青ざめた。

「グアド……の……!」

「シーモア様がお呼びだ、共に来てもらおう」

「シーモア老師はお亡くなりになった筈です!」

「偉大なるシーモア老師は、黄泉の国より舞い戻っていらした」

まさか、ちゃんとあの時、息を引き取るのを見届けた筈。
以前グアドで見たジスカル同様、異界に逝かずに留まっているのか。

どちらにせよ狙いはユウナだろうと、恐怖心を押し殺してユノはユウナの前に立つ。
だが相手は「勘違いするな」と鼻で笑った。

「共に来てもらうのはお前も同じだ」

「え……!?」

「シーモア様はお前たち2人をお呼びだと言っている」

「ユノ!」

手を伸ばすグアド族に今度はユウナが盾になる。
捕らえられたユウナは必死に叫んだ。

「逃げて!」

「で、でも、でも……!」

「私は、大丈夫っす!」

ティーダの口調を真似て笑ってみせるユウナに、バクバクと脈打つ心臓が逃げろと全身に命令を出す。
ユノは拳を握り締めて反対側に走り出した。召喚士の部屋を目指して全力で進む。

怖い、掴まりたくない、殺されたくない、嫌だ嫌だ嫌だ!
動き続ける四肢が体を前へ前へと運ぶ。

けれども浮かんだのは、ユウナのさっきの笑顔と、その前にした会話だった。

笑っていても、大丈夫だと言っても、彼女も自分と同じように、怖いんだ。怖いのに、無理をして強がっているんだ。自分よりも幼い女の子が、たった1人で。

足がその勢いをなくして、ユノは悲鳴と銃声の渦巻くホームの中で立ち尽くした。
そして震える自分の体に大して威力のない拳を叩き込む。

前へ踏み出していた足を後ろへと戻し、来た道をまたも全力で走った。
泣きそうになるのを、唇を噛んでなんとかこらえる。

逃げちゃ駄目だ、逃げたらまた、1人になるだけじゃないか。

味方はいない、ガードもいない。
今ユウナの傍にいるのは自分だけ。それなら──


俺が、ユウナを護らなきゃいけないんだ。



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