星明り瞬き蘇り
□5.花の下に戦士は集い
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ユーリ達と出会ってすぐ、ラゴウを追っていた頃に来た港町は、相変わらず向かい岸にある港町とは真逆の明るさで。カプワ・トリムはトラブル続きの一行にほんの僅かな安心感をもたらしていた。
「少し前にも来たのに、なんかちょっと懐かしいね」
「感慨に耽ってないで、宿に行こうぜ〜。
腹減った〜」
なんでついさっき合流したばかり……というか、勝手についてきているだけの男が主導権を握っているのだろうと、アルノルドは誰にも気づかれないまま再び苛立ち始めていた。腹が減ったなら、何処へなりと行ってくれればいいのに。
ユーリはわかったわかったと何の不満も漏らさずレイヴンのお望み通り宿屋に向かった。まだ陽も沈んでいない為に人の姿も数える程度しかなく、待つことなく空き部屋に通された。
話の前にとルームサービスで早めの夕食を頼むレイヴンを白い目で見てからジュディスを見ると苦笑が返ってくる。
がつがつと料理を掻き込むレイヴンと違って、早い夕食を皆はゆっくりと食べた。誰も文句を口に出さないまま、レイヴンは空になった食器にフォークを置く。
「あ〜お腹いっぱい、ご馳走さまでした」
「それは良かったですね……。それで、ご用件は?」
相手の言葉が本当ならば、自分の意思で来たのではないのだろうことは分かっていたが。その理由はとても単純かつ明快なことだった。
「なるほどな。ユニオンとしては帝国の姫様がぶらぶらしてるのを知りながらほっとけないって訳か」
「ドンはもうご存知なんですね、わたしが次の皇帝候補であるってこと」
「そそ。なもんで、ドンにエステルを見ておけって言われたんさ」
つまり自分と似たような立場という訳か。まあレイヴンは“監視”で、自分はそれプラス護衛という役目があるのだが。
身勝手なお姫様に振り回される人間がまた増えるのかと思うと少し同情もしたが、それがレイヴンであるということからそんな気持ちはすぐに飛んでいった。こんな男に同情など必要ないだろう。
レイヴンの話が終わると、次はリタの質問が始まる。
「……んで、あんたらはフェローってのを追って、コゴール砂漠に行こうとしてると」
「はい」
「砂漠がどういうとこか、わかってる?」
「暑くて、乾いてて、砂ばっかのところでしょ」
「簡単に言うわね、そう簡単じゃないわよ」
その通りだ。だがそのことは前にも言ったし、エステリーゼがそれで諦めないのもアルノルドは既に知っている。
「とりあえず、近くまで皆さんと一緒に行こうと思って」
「それから?」
「色々回ってみて、フェローの行方を聞こうかと」
「……ツッコみたいことはたくさんあるけど……、お城に帰りたくなくなったってことじゃないんだよね?」
「えと……それは」
「おっさんとしては、城に戻ってくれた方が楽だけどなぁ」
そればかりはレイヴンに同意した。
見飽きた白い床や壁が今となっては少し恋しい気もする。何事もなくが一番だとアルノルドは身を持って感じていた。
「ま、デズエール大陸ってんなら好都合っちゃ好都合なんだけども」
「どうしてかしら?」
「ドンのお使いでノードポリカへ行かなきゃなんないのよ。ベリウスに手紙を持ってけって」
「うわっ、大物だね」
「ノードポリカを治める、闘技場の首領の方、でしたよね?」
「正確には統領っていうんだけどね」
前にも聞いた名を得意の記憶力で脳から引き出したエステリーゼに、カロルが少しばかり訂正を加える。
レイヴンは懐から白い封筒を取り出すと、それをユーリに投げ渡した。
最年長である自分に渡さなかったのは互いの役職のせいか、はたまた信頼が無いからか。まぁどちらでもいいことだが。
「その手紙の内容、知っているのかしら?」
「ん、ダングレストを襲った魔物に関する事だな。お前さん達の追ってるフェローってヤツ。ベリウスならあの魔物のこと知ってるって事だ」
「こりゃ、俺たちもベリウスってのに会う価値が出てきたな」
「ですね」
「っつーわけで、おっさんも一緒に連れてってね」
その視線が自分に向いているのに気付いて、アルノルドは声には出さず口だけで告げる。エステリーゼ様や自分に害をなすなら切り捨てる≠ニ。
「わかってますって」
「? 何がだ?」
また胡散臭い笑みを浮かべて返答したレイヴンにユーリが聞くが、それには答えなかった。
わざわざ声に出さなくてもいいだろうと睨むと相手は楽しそうに目を細めた。揶揄われている気がして、アルノルドの機嫌はどんどん悪化していく。
「わかったよ。でも一緒に居る時はちゃんと凛々の明星の掟は守ってもらうよ」
「了解了解〜。んでも、そっちのギルドに入る訳じゃないから、そこんとこもよろしくな」
「どうして凛々の明星に入らないのです?」
「同時に二つ以上のギルドに所属する事は禁止されてるんだ。レイヴンだって一応、天を射る矢の人間だしね」
「一応ってなんだよ」
「話は終わり? じゃあ、あたしそろそろ休むわ」
リタは2人の軽い漫才を軽く流して、すたすたと部屋を出ていく。
リタはどうするのだろうかと気にしていたエステリーゼだが、恐らく、いや確実について来るだろうなとアルノルドは思った。
元々エステリーゼと共に行動することを望んでいたのだし、危険を犯そうとしているエステリーゼを置いてはいかないだろう。
「明日の出発まで自由行動かしら?」
「うん、そうだね。明日になったら港に行ってみよう」
自由行動と言われても、エステリーゼから目の離せない自分に自由な時間などあるわけもなく。
結局空が暗くなりエステリーゼを部屋に戻すまでは、アルノルドは傍に付き添いながら時間を潰していった。