銘々の明晰夢

□3.悲しみと引換の活路
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(ここ……どこ……水の中……?)

毒気が抜けて意識が回復した時、ユノは水の中を漂っていた。

それを自覚した瞬間、脳裏にキーリカでの惨状が蘇る。
ルカまで流された時の感覚が全身を襲い、苦しくなって必死に水面へと浮上する。

「──っはぁ! はぁ……はぁ……っ、っげほ」

寒さとは違う理由で体が震え、酸素を急に取り込んだのとは別の理由で胸が痛んだ。
心細くなって周囲を見渡すが、砂の大地が広がるばかりで誰の姿もない。

「ティーダ、ユウナ、リュック、ワッカさん、ルールーさん、キマリさん……!」

はぐれてしまったのか、こんな見たこともないような砂漠のど真ん中で。
不安に押しつぶされそうになる体を強く抱く。

「……アーロンさん……!」

怖い。1人になるのはもう嫌なのに。

すると自分が上がってきた水面がザバァッと水しぶきを上げた。そこに1つの人影が現れる。
相手はこちらを見つけると、ホッとした顔で駆け寄る。

「ユノ!」

「ユウナ……!」

自分と同じく水浸しでやって来たユウナと抱擁を交わす。
だが、そのほかに誰かが上がってくる気配はない。

「他の……皆は……?」

「……居ないの?」

「うん……」

「そっか……先に行っちゃったのかな?」

「それは……ない、と思う。ユウナを置いていくなんて……」

「……そだね、君も居るしね」

自分はユウナのおまけなのであまり説得力はないが、ユウナを置いては行かないだろう。それは絶対だと言い切れる。

とりあえず現状を把握しようと砂の山を登ってみるが、360度どこを見ても同じ景色が広がっているだけ。

「あちこちに機械の……残骸? みたいなものがあるけど……」

「あ、待ってユノ。あそこに見えるの、人じゃないかな?」

少し遠いのでハッキリとは見えないが、確かに人のように思える。
試しに手を振ってみるが、この距離では気付いてもらえない。

「行ってみる?」

「で、でも、友好的な人とは、限らないし……それにもし、魔物だったら……」

「でも、このままここに居ても危ないと思うんだ」

湖を今一度見るが、やはり誰かが現れる様子はない。
ユノは頷いて、ユウナと2人砂漠を歩き始めた。

暑さのせいで水はすぐに乾き、足は砂に取られて思うように進まない。
幸い魔物とはほとんど遭遇せずに済んだが、体力の消耗は激しかった。

「……はぁ、はぁ……」

「……ユウナ、大丈夫?」

「……うん、平気だよ」

──駄目だ。
大丈夫? と聞けば、ユウナは大丈夫としか答えない。

とはいえ自分が背負っていくことは出来ないし……と悩むユノの視界に杖が留まった。

「……あ、そうだ。ユウナ、ちょっと離れてて」

杖を額に当てて、両手で空高く掲げる。
そこから垂直に降ろして片手に持ち替え、体と水平方向を保ったまま一回転。

ユノの周囲には光の輪が出来て、そこから大きな魔方陣が展開していく。
東西南北にそれぞれ1つずつ円が浮かび、そのうちの1つ、西の陣を杖でちょんちょんと突付くと、他の陣は消え、残ったそれから光の柱が空へと伸びた。

光の当たる部分を中心に雷雲が立ちこめ、その中から一匹の白い虎が落ちてくる。
虎はユノの前に降り立ち、空気を振るわせる咆哮を上げた。

「……召喚獣?」

「うん、白帝、っていうんだ」

白い毛皮を纏うその巨体に腕は回せないが、精一杯抱きしめると、応えるように白帝はユノの髪に鼻を押し当ててくる。

「ユウナ、乗って」

「え? でも……」

「大丈夫だよ、暴れたりしないから」

「そうじゃないの。ずっと召喚してると、ユノが疲れるでしょ?」

「……大丈夫」

伏せる白帝の頭をなででその背に跨り、上から手を伸ばす。
ユウナは「ありがとう」と言ってそれを掴んだ。

「でも、無理しないでね」

「わかった、ありがと。掴まっててね」

白帝が立ち上がるとその分自分たちの視界も高くなり、より遠くまで景色が見えた。
さっきは見えなかったが、果てに建物のようなものがある。

「あれ、なんだろ? こんな砂漠に……」

「とりあえず、行ってみない?」

ここまで来てしまえば一緒か。ずっと後方に流れてしまった出発点を振り返りつつ、ユウナの言う通り前進する。
謎の建物を目印に白帝を走らせていると、さっきの人物だろうか、人を見つけて停止した。

「……うわっ!? ま、魔物……!?」

「あ、ちち違い、ます! ごめんなさい!」

ユノは慌てて弁解しつつ、ユウナを先に下ろして、自分も飛び降りる。
白帝に礼を言うと、もと在る場所へと還って行った。

「召喚獣……ってことは、あんた達召喚士か!」

「はい、えと、ユノです。驚かせてすみませんでした」

「私はユウナと申します。あの……ここは一体……」

相手は何かを考えて、周囲を見渡した。

「……ガードはどうしたんだ?」

「……えっと……」

素直にはぐれたと言ってもいいのだろうか。
ガードが居ないということは完全に無防備ですと教えるようなものだ。ペラペラと喋るのは危ない気がする。

警戒して返事に困っていると、相手はとりあえず一緒に来ないか? と誘ってきた。

「あそこに見える建物があるだろ? あれは俺の住んでるとこでな、もしよかったら一緒に来ないか? 歓迎するぜ」

「で、でも……」

「ずっと砂漠に居たんじゃ干上がっちまうぞ。ガードともはぐれちまったんだろ?」

お見通しか。
従うかどうかはユウナに任せようと隣に目線を送ると、ユウナは相手に近寄って、じっとその顔を見た。

「? な、なんだ?」

「……アルベド族の方、ですね。」

「えっ?」

相手はなんで分かったんだという顔で一歩後ずさる。
ユノもユウナが何で判断したのか分からなかったが、反応からして間違いなさそうだ。

「リュックに教えてもらったの、アルベド族は目にうずまき模様があるんだって」

「リュック!? なんだ、あんたらリュックの知り合いか」

「お、お世話になって、ます」

「何かよく知らねえが……なら、尚更一緒に来てもらえねえか? 仲間の友人をこんなところに置き去りには出来ねえ」

「……ユウナ、どうする?」

「居させてもらって、いいんじゃないかな。もし皆が近くにいるなら、少なくともリュックはここに来ると思うから」

それもそうか、あちこち動き回るよりは合流出来る可能性はありそうだ。
それに魔物のうろつく砂漠でユウナを連れ回す訳にも行かない。……自分もあまりうろつきたくない。

「えと、じゃあ、よろしくお願いします」

「よし! じゃあついて来てくれ!」

先導するアルベド族に続いて、二人も歩き出す。
とにかく早くみんなと合流できますようにと、ユノはすっかり見えなくなった湖の方角に祈った。


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