君に咲く風信子

□4.すれ違う各々の想い
1ページ/11ページ


船を降り、星の核へ続く道があるとされる孤島へ降り立つ一行。
島はそれほど広くは無く、一行は星の核への入り口を探す。

「これが例の縦穴かな? 蓋されちゃってるみたいだけど」

「リチャードはまだこの島へ来ていないのか?」

「みんな! 空を見て!」

シェリアの声で皆の視線が下から上へと移動、そこには魔物に乗ったリチャードが。

「リチャード!? その体は一体!」

地面に降り立ったリチャードの体からは、ドス黒い気が漏れ出していた。
リチャードは苦しそうに呻きながら大量の気を放つ。

「どうなっているんだ?」

「あまりに大量の原素を取り込んだせいで、体が堪えられなくなったんじゃ……」

「リチャード、止まれ! これ以上進むな!」

「だまれ……ここまで来たのだ、ようやくここまで来たのだ。邪魔をするな!」

リチャードは刃を構え襲い掛かってくる。
それをなんとか退けると、リチャードは倒れこみのたうち回り始めた。

「グォ……ナゼだ……ナゼ体が……。
ココマデ……ココまで来て……!」

「こうなってはもう助かるまい。とどめを刺すのが、せめてもの情けだろう」

「待って下さい! リチャード……リチャードの声が聞こえる」

「……ベル……スベル……」

「リチャード!? リチャードっ!」

「……クルシイ……タスケテクレ、アスベル……」

「ああ、今なんとかしてやる」

「……?」

リチャードの言葉に必死に耳を傾けるアスベル。
その光景を見ながら、ルーカスは違和感を感じる。

(……なんだ、この……雑音みたいな音……)

それはいつものように、頭に入ってくる声と同じ。
だが、妙にノイズのようなものがかかっていて聞こえづらかった。

こんなことは今まで一度もなかったのに。

「シニタクナイ……キエタクナイ……。コロサナイデ……ボクラハ……トモダチ……ジャナイカ……」

ソフィもアスベルと同じように進み出て、リチャードの傍に膝をつく。

「マタ……キサマカ……プロトス1……!」

「プロトス1って、英知の蔵で出てきた……」

「違うよ……わたしは……ソフィだよ。リチャード、友情の誓いしよう。そしたらきっと……」

ソフィがそっと手を差し伸べる。
険しかったリチャードの表情が和らいだ。


だが、


「……消えろ」


ルーカスの頭に響いていたノイズ混じりの声と、現実のリチャードの声が重なった。

「ソフィーッ!!」

ソフィの眼前に突きつけられたリチャードの剣から激しい光が放たれ、大爆発を起こす。
直撃を受けたソフィは吹き飛ばされ、地面に倒れ伏す。

リチャードは空高く舞い上り高笑いを辺りに響かせた。

「ソフィ、ソフィ! しっかりしろ! 目を開けてくれ、ソフィーッ!!」

「とうとうここまで来た……! もはや誰も我を止められぬ!」

リチャードからあふれる気が不気味な触手のような実体を成し、辺りに突き刺さる。
その人ならざる姿を見上げながら、聞こえなくなった雑音にルーカスは漸く理解した。

「……もう1人居る」

「は?」

「リチャードの中にもう1人居る」

「どういう……いや、それよりも今はとにかく逃げるぞ! このままだと巻き込まれる!」

「ソフィ! ソフィ!」

「兄さん急げ!」

「ぐっ……!」

アスベルは仕方なくソフィを揺さぶる手を離し、彼女を背負って走り出す。

「ルーカス! 教官! はやくはやく!」

「待って、あいつ放っておけな……」

「後にしろ!!」

次々に地面に突き刺さる触手をかわしながら皆は走った。
マリクに無理やり連れ出されたルーカスも船に詰め込まれ、一行は孤島を脱出する。

遠ざかる孤島の上には、天まで届くほどの巨大な繭が形成されていった。




「ソフィ、ソフィ! 目を開けてくれソフィ!」

ザヴェート港に戻り、アスベル達はソフィを地面に寝かせて取り囲む。
シェリアとヒューバートの治療により傷は綺麗になくなり、しばらくして漸く少女は目を覚ました。

「ソフィ!」

「気がついたのね、よかった!」

「ア……スベル……? シェリ……ア? わたし……どうしたの……?」

「リチャードに攻撃されて気を失っていたんだ」

「リチャード……どうなったの……?」

「リチャードは……いきなり湧き出した繭のようなものに飲み込まれて……でもまだ死んだと決まったわけじゃない」

「リチャード……。う……うああああああ!」

ソフィの体が光だし、苦しそうにもがき出す。
息を切らしながら空ろな目で皆を見上げるソフィは、「みんな……どこ……」と呟く。

「あなた、まさか……目が……」

「どこ……どこなの……」

「ここです、ソフィ」

「全く見えないのか?」

「……みんなの顔……少しずつ、ぼんやり……していくの……」

「攻撃を受けた後遺症かな……まさかこのまま放っとくと、いつかは完全に……」

「ソフィ……」

「だめ、薬も術も全く効かないわ」

「どうすればいいんですか? 何かいい手は……?」

「……とりあえずさ、暖かいとこに寝かせてあげたほうがいいんじゃないの」

ソフィを助け起こして、宿屋まで運び出す。
ベッドに寝かせると、少しは楽になったのかすやすやと眠る。

「アスベル、言いにくい事なんだけど……、ソフィは……あたしたち人間とは違う存在なんじゃないかな」

「パスカル……!」

「今の様子だって人間じゃ考えられない反応だよ。だから……」

「ソフィが人間だろうとなかろうと、苦しんでいるのは事実だ。諦めようっていう話なら俺は聞かない」

「ううん、むしろその逆だよ。ねえみんな、あたしが英知の蔵で話した事覚えてる?」

「私たちがいる所とは別にフォドラという所があって、そこからプロトス1が来たって話?」

「プロトス1は、大W石を狙っていたラムダという存在を阻止したとも言っていたな」

「もしリチャードの言う通りソフィがプロトス1だったら可能性が1つあるの。ソフィをフォドラへ連れて行くんだよ」

パスカルの提案に皆はぎょっとするが、本人は平然と続ける。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ