家族のカタチ

□3.償いの旅立ち
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神子が世界再生へと旅立つ日の朝、カーノはいつもより早くに目を覚ました。

昨日寝すぎたかな、とまだぼんやりとした頭で考えつつもベッドから足を下ろす。
隣ではまだ夢の中であろうロイドが寝息を発てており、蹴り飛ばされた布団を掛け直してから、起こさぬように足音を最小限に抑えながら階段を下りた。

「お早うさん。
今日は早ぇじゃねぇか。」

自分より早起きな義父は朝から仕事に励んでおり、「目が覚めたんだ」と返し朝食確保の為に台所へ向かう。
適当に置いてあったパンを手にとって真ん中に切れ目を入れ、そこに肉や野菜を挟んでかぶり付く。

パンを左手で支えながら、右手でコップを取り出し、ダイクが先に沸かしておいてくれたのであろう珈琲を注ぎ、それを持って机に向かい椅子を片足で器用に引き出して腰を下した。



「そういえば今日だったな、嬢ちゃんが行くの。」

独特の苦味のある茶色い液体でパンを流し込んだカーノは、ダイクの言葉に昨晩見た金色を浮かべながらそうだなと答えた。

「見送りに行かなくていいのか?」

「それを言うならロイドだろ。
爆睡してたぞ。」

あんなに着いていきたいと言っていたから、てっきり早朝に脱け出したりするつもりかと思っていたが、あの様子ではまだ当分起きそうにない。
コレット達がいつ頃村を出るのか知らないが、あのままでは出発に立ち会えるかも怪しかった。

「まあ一応見に行ってみるわ。」

「おう、行ってこい。」

そうして朝食を早々に済ませ、軽く身なりを整えてから村に向け出発した。






着いてすぐに、彼は村の子供達が通う学校の前に人だかりを見つけた。
何だろうかと近付いてみるとその中心に居たのは自分の知る女性教師のリフィルで、いつもチョークが握られているその手には魔法具の杖が収まっていた。

人に囲まれたままこちらにやってきたリフィルは、カーノの存在に気付くと足を止めた。

「あら、早いのね。」

「お早う御座います。

…何処か行かれるんですか?」

わらわらとリフィルに群がっていた子供達が口々に「行かないで!!」だの「早く帰ってきてね!!」だのと言うのを聞いて訊ねると、返ってきたのは予想外の答えだった。


「世界再生の旅よ。

コレットの護衛を任されたの。」


落ち着いて言うリフィルに、カーノは意表を突かれたように目を丸くした。

いつの間にそんな話になっていたのか。世界中の命が懸かった旅なのだからコレットを護る人数は多いに越したことはないのかもしれないが、態々こんな小さな村の唯一の教師を指名しなくてもと彼は思った。

「学校はどうするんです?」

「私が戻るまで休校になるわね。
他に教えられる人が居ればいいのだけれど…」

その先は反語だった。つまりこの村にはリフィル程勉学に精通している者など他には居ないという事で、そこには必然的に生徒も無期限休暇となりますよという意味合いが含まれていた。

台風などで学校が臨時休校になった場合、低学年の子供を持つ親の何人かは喜びはしないだろう。それは多分育ち盛りの活動的な人間の相手をするのは大人にとって楽なものではないからであって、育児から解放される貴重な時間を奪われるからなのだろう。

そして母親の居ないアーヴィング家にとって、その役割を請け負うのはダイクではなくカーノで、彼は例によって肩を落とした。自分が面倒を見るのは低学年の子供などではなく17歳の少年なのだが、残念な事に中身は小学生のそれと同じという人物な為に苦労を回避する事は出来そうになかった。

「そうですか…。

…頑張って下さいね。」

当方の予定が崩れ去ってしまい落ち込みながらも辛うじてそれだけを伝える。
そんなカーノの心境を察したリフィルは、苦笑しながらまだ若い保護者に同じ言葉を贈った。






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