家族のカタチ

□5.海鳥は渡り行く
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砂漠地帯を抜け、一同は次の封印へ向かう為に山を越える事を選んだ。
山道に入ってすぐ、ジーニアスが落とし穴のようなものを見つけ、慌てて立ち止まる。

旅に同行している女教師によると、それは昔使われていた坑道らしい。その付近には赤色の丸い取っ手がついたレバーがあり、それを倒せば穴が開くという構造だ。

翌々転んだり滑ったりしている幼馴染みの少女に、ロイドは気を付ける様に呼び掛ける。それに対する少女の返事はそれはもう頼りないもので、皆はかえって不安になるのだった。

まるでピクニックにでも来ているかのように和気藹々として進む彼らに、自分達が今しているのはあくまで世界再生という責任重大な旅だという事を思い出させたのは、上空より降り注いだ見知らぬ女性の声だった。

「この中に再生の神子はいるか!」

狙いを明確に示しているその言葉に、条件反射的に武器に手をかける。
一方代名詞でご指名を受けたコレットは、見事に場の雰囲気を読んでいなかった。

「はい!私が神子です!」

親切に挙手までして名乗り出たコレットに脱力し、一瞬気を緩める。
その隙を感じ取った女は、一気に崖から飛び降り懐から札を何枚か取り出した。そしてそのまま「死んでもらう」などと物騒な言葉を吐いて神子に突進する。

一番近くに居たロイドがそれを防ぐが、女は先程取り出した札をロイドに向けばら蒔くと、指を立て何かを唱えた。

瞬間、札は爆発し、ロイドは吹き飛ばされる。

「―符術か!」

それを見たクラトスが瞬時に答えを導き出す。聞いたことのない響きのそれにカーノが首を傾げる暇もないまま、今度は札から魔物が飛び出しクラトスに襲いかかる。
離れた場所で銃を構えていたカーノが得体の知れないそれに向け発砲すると、実体は有るようで弾が貫通し敵が悲痛の声を上げる。

「…すまない。」

「いや、前に助けて貰ったからな。」

砂漠の中で死んでいたかもしれない自分を救い出してくれたアンタに比べればこれくらい訳ないよと、自分の羞恥を思い出し情けなく言えば、相手はそうかと前に向き直る。

女の標的は相変わらずコレットに向いており、周りがそれを阻止しつつ反撃に出る。
豊満な胸を振り乱しつつ身軽に動き回る相手に翻弄され、陣形を崩したカーノ達の間を縫って女はコレットに急接近した。
武器を構える敵に誰もが間に合わない、と思った。そしてコレットに降りかかる攻撃に少年達は目を閉じ―、


「あ……っ」


瞼を完全に下ろす前に、若い暗殺者は突如として姿を消した。
否、消したというより、落ちたと言った方が正しいのだろう。
女が立っていたのは例の坑道の入り口で、お約束によりコレットが迫り来る敵に驚き尻餅をついた瞬間それは落とし穴へと変身した。つまりはコレットが偶然レバーを倒した事で、名前も知らない女は足場を失い重力と共に落下していったのだ。

随分間抜けというか可哀想な話ではあるが、相手は神子を殺そうとした輩である手前そんな事は言えない。だがあくまでそれはカーノやリフィルにおいてであって、やっぱり雰囲気の読めないコレットは底の見えない穴に向かって謝ったりしていた。

彼女らしいといえばらしいのだが、もうちょっと危機感とか持った方がいいんじゃないかとすっかり保護者気分の青年は思う。その間リフィルが穴に消えていった女の服装について何か心当たりがあるような素振りをしたが、結局何でもないと言って何時もの彼女に戻る。

「とにかく、先を急ぎましょう。
何処で誰がコレットを狙っているか分からない以上、長居するのは危険だわ。」

リフィルの言葉に頷きを返し、足早に緩やかな坂を登る。
その下では先の暗殺者が密かに移動していたりするのだが、視界の届かない位置に居る彼女に気付く者はおらず、未だに穴の下でのびているだろうと想像したカーノは一度振り替えって誰も居ない場所に黙祷を送った。






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