家族のカタチ

□6.共鳴する傷痕
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「お母さんっ!!」

悪い噂を聞きつけパルマコスタへとんぼ返りしたカーノ達が最初に聞いたのは、町の喧騒と聞き覚えのある女性の声だった。

総督府の前で群れを成す人々を掻き分け前に出ると、処刑台に縛り付けられた女性と、その娘であり、ワインの件で世話になった売り子がその下で叫んでいるのが見えた。

その近くには兵士が控え、台の上では顔に傷のある赤髪の男がふんぞりかえっていた。
あれが大将かとあたりをつけながら、先に娘の方を敵から引き離す。

「あなた…さっきの…!!」

「危ないから下がって。」

武器を手に取り女性を後ろへと避難させ、なるべく敵の目につかないよう側まで移動する。
緊迫した空気の中、町の人々は何も出来ずに処刑台の女性に同情の目を向ける。逆らえば次は自分がああなるという暗黙の了解は皆を硬直させていた。

だがそれが解らない者というのも存在していて、例えばそれは小さな子供だったりした。親が青ざめる隣で幼い少年は壇上の敵に向かって小石を投げつけた。
投げた後どうなるかというのはその少年や他の子供を除いた町民にも、カーノ達にもわかっていた。

だから兵士にマグニスと呼ばれたその男が少年に近付く間、大人達は身を固め、逆にカーノ達は動いた。

「やめろ!!」

ロイドの声が静寂を切り裂く。マグニスの視線は勇敢な少年からロイドへと移り、こちらは怒りを顕にし相手を睨んだ。

馬鹿な奴らだと自分達を率いるリーダーの力に安心しきっている兵士の上空を、金の輪が通り過ぎる。それはコレットのチャクラムで、狙いを定めて投げられたそれは女性を縛り付けていたロープを見事に切り落とした。

「逃げて下さい!!」

「なっ…!?」

コレットの声に驚き慌てて捕まえようとする兵士をジーニアスが阻む。その隙にリフィルは台から下りてきた女性を安全な場所へと誘導する。

それを視界の端で捉えたカーノは、手に持った銃の安全装置を外し相手に向けた。


「…嘗めた真似してくれるじゃねぇか。」


威圧的な態度の男に照準を合わせる。だが相手はそれを待つことなく斧を握り襲いかかってきた。

カーノに振り下ろされた斧をロイドが受け止め、重たいそれをなんとか弾き返す。
助けてくれた弟に礼を述べながら、これでは弾を当てるのは難しいなと判断した彼は、銃を下ろし手を前に突き出した。

「ロイド、俺が援護するから、お前は斬り込んでくれ。」

「わかった!!」

こちらを振り返る事なく突進していくロイドを信頼し、目を閉じて詠唱に入る。その呪文は味方の攻撃力を上げるもので、その効力はロイドに限らず他の面々にも及んだ。

力を増幅させたロイドとクラトスが同時に剣をなぎ払い、傷を負ったマグニスは「覚えてろよ!!」とお決まりの捨て台詞を吐いて去っていった。




「怪我はない?」

手首にロープの痣を残す女性にリフィルが優しく言う。
集まっていた町民は過ぎ去った恐怖に一先ず解散し、店や家に消えていく。
一時的にも平穏を取り戻した広場で、一行は2人の女性に頭を下げられた。

「本当に有難う!!
お母さんまでお祖母ちゃんみたいになったらどうしようかと…」

ショコラと名乗った売り子の女性に、お祖母ちゃんみたいにとはどういう意味かと問うと、ショコラは悲しげに眉をひそめ、祖母は昔ディザイアンに連れ去られ、今もまだ戻っていないのだと語った。

そして話を聞くうちに、ロイドやジーニアスの頭には1人の老婆の姿が浮かんだ。まさかと恐る恐るジーニアスが自分の知る名を上げると、ショコラは「知ってるの!?」と食い付いてきた。

嫌な予感が的中し、言葉を失った2人に、カーノもまた1人の老婆を思い出した。イセリアに居た頃ジーニアスがいつも会いに通っていた女性、自分は直接話したことはないが、ジーニアスを庇って死んでいったあの人はきっと優しい人間だったのだろう。

そう、彼女はもう居ないのだ。ディザイアンにエクスフィアを着けられ、牧場で痛め付けられ、最後は怪物に変えられて自爆した。その原因はここにいる2人の少年で、彼らはその罪を背負って村を出た。

だがその事を今目の前にいる女性に話せば、相手はどう思うだろうか。ロイド達を祖母を殺した犯人として怒り狂うのではないか。

カーノは悩んだ結果、真実を告げようか迷っている2人に首を振った。それは「言うな」というジェスチャーだった。黙っているのはずるい気もするし、騙しているようで罪悪感も余計に膨らむだろうが、言ったからといって故人が生き返る事はない。何より彼は、これ以上ロイド達が罵倒され傷付くのを見たくはなかった。

本人の為にならないとは解っているが、感情はその理性を脳から追い出した。例えこれが甘やかしなのだとしても、今はそっとしてやって欲しいと兄である彼は思った。





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