家族のカタチ

□7.大禍時は迫り来る
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石版を読み解いたリフィルの発言により、次の目的地は大陸の最西端にあるバラクラフ王廟に決まった。
風の封印があるというその地で、誰に言われるでもなく入り口に置かれた石版にコレットが手を乗せる。

外とは対照的に、陽の光を一切取り込まない其所は、青い光に照らされ暗い雰囲気を漂わせていた。

「トラップが多いな。」

「あれ、刺さったら痛いどころじゃねーんじゃ…」

一定のリズムで壁から飛び出る針の山に、ロイドが身を震わせる。
その横ではコレットが長い髪を風に遊ばせていた。
窓も無い屋内で何故風が、と風が吹いてくる方を見ると、換気扇のようなものが壁に取り付けられていた。

見える範囲で探してみると、どうやらそれは他にも何個かあるらしく、各所から風音が聞こえた。

(これもトラップの一種か…?)

見たところ少し強い風が出ているだけで実害はないと思うのだが、ただの飾りとしては不自然なそれに念のため注意を払う。

そんなカーノの後ろで、彼とは全く別の事を考えながら敵をなぎ倒していく男が1人。
燕尾のように背中で2つに分かれる外衣を靡かせる鳶色の髪の男は、前を行く薄黄色の髪を穴が空く程見つめた。


(……何だ、どうしたと言うのだ私は。)


彼の思考はアスカードに遡る。それは今自分が視線を向ける男が1人隊列から離れた時の話だ。地面に座り込む男に声をかけ、ほんの少し会話をしたのを覚えている。
彼が今悶々と考えているのはその時の内容で、誰が聞いても特に気になる箇所はないその会話の中で、彼は自分が相手にした質問について疑問を抱いていたのだった。


「……此所に何かあるのか?」


数刻前自分が言ったそれに、相手は別にと答えた。別にという事はないだろうと追及しようとした彼は、その時自分のやろうとしている事のおかしさに気付き口を止めた。その心は以下の通りだった。


(……何故追い込む必要があるんだ?)


別に聞かなくても問題はないんじゃないかと、深追いしようとした自分に首を捻る。今までこういった事がなかった訳ではないが、それは自分に関係のある話の場合で、今回はさして己と関わりのない話の筈だ。

例えば相手が街に入ってから様子がおかしかったとしても、いつもは呼ばれればすぐに反応するのに服を引かれるまで気付かなかったとしても、別行動を取って何もない空き地に座り込んでいたとしても、元から謎の多い相手なのだからさして気にする事も無いだろうに。

後をつけたところまでは不審な動きをしたものだからと言えば納得も出来るが、害が無さそうな行為だと知った上で更に踏み込むのは明らかに不必要な行いではないのか。


(…いや、違うな。)


自分は相手の素性を知りたがっていたのだから、相手がアスカードを知っているのかと聞く事は自然な事か?クラトスは自問自答した。しかしまた1つ引っ掛かりを感じ額に手を当てる。

いやいや、その件については前に相手と契約を交わしている。契約といってもただの口約束だが、何時か真実を話すと奴は言った。ならば一々此方が探りを入れる必要はやはり無いのでは?私が離れる事になる時にでも聞き出せばいいだけではないか。相手は約束を破る気は無い様だし、最後だからと言えば素直に話してくれるだろう。

ではやはり探る意味は無いのではないか。考えれば考える程自分が解らなくなっていくクラトスは、今にも唸りだしそうな程頭を悩ませていた。

まずそんな事でそこまで考え込んでいることが既におかしいのだが、現在頭の中の問題を解くのに必死だった彼はそれにすら気付かなかった。


「おっ、何か書いてるぞ。」


一方そんな事とは露知らず王廟を探索するカーノ逹は、ロイドが見つけた文字盤に視線を集中させた。

「えーっと何々?
…王を讃える聖印は神の御座から豊穣の大地へ流れ、神の威光から安息の大地を巡る……?」

小難しい漢字のオンパレードを苦もなく読み上げる最年少の少年に感心しつつ、文の意味を解読しようと試みる。

「……もしかして、色を表しているのかしら。」

皆が首を傾げる中、逸早く答えを導きだしたのはやはりリフィルだった。

「さっき通った時に色の付いた風車が見えたでしょう?この文はあれを回す順番を示しているのではないかしら。」

「…なるほど!!流石だな先生!!」

生徒に誉められ照れる女性に微笑みながら、ふと先程から全く会話に参加しないクラトスに疑問を感じ振り返る。

すると相手は何やら真剣な顔で考え込んでおり、こちらの視線に全く気づいていない様だった。


「……クラトス?」


邪魔をしては悪いかと思いつつも、このままではトラップに嵌まってしまうのではないかと不安になり、意識をこちらに連れ戻す。

「………何だ?」

「いや、下向いて歩くのは危ないと思うぞ。」

余計な世話かもしれないけど、と相手の実力を知っているカーノは最後に付け足す。


「……そうだな。」


クラトスはたった一言そう言って、こちらの顔をじっと見つめた。かと思えば目線を反らしてスタスタと前を行ってしまう。
良く解らない奴だなと逞しい背を目で追い、ロイドに呼ばれたカーノは皆の元へと戻った。





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