家族のカタチ

□8.繋がりは壊れ離れ
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「次は何処へ行けばいいんですか?」

暖かい風が爽やかに吹き抜ける朝。
悲痛な思い出の詰まる牧場で1つ目的を果たした一行は、また新たな目的へと休むことなく歩き出す。

昨夜2人で何か話していたらしいロイドとコレットは何処か元気がなく、心配して声をかけたりもしたが、話せない事情でもあるのか、それとも心配させないようになのか、2人は「なんでもない」と言った。
なんでもないと言われてもやはり気になるものは気になるし、何か2人だけで思い詰めていることや隠し事があるのなら、いつどんな事をしでかすかわからない。また無茶をしたりしなければいいけれどと小さな2人を見下ろした。

「マナの守護塔に、と言いたいところだけど…、
鍵がまだ見つかっていないわね。」

それに気付いているのかは定かではないが、いつもと変わらぬ、否、先日の件で少しだけ語調の低いリフィルが先頭を歩く。

鍵、そういえばと牧場で見知らぬ少女に渡されたあれは鍵のようだったなと懐から取り出す。

「これは…違いますかね?」

錆びた金の鍵を掌に乗せリフィルに見せる。

「確かに鍵のようだけれど…一体どこで?」

「牧場で捕まっていた子がお礼にって。」

今頃街で母親と共に復興を手伝っているだろうかと、贈り主の元気な姿を思い浮かべ僅かに顔が綻ぶ。

「確かめてみましょう。」

「…コレットちゃん、大丈夫か?」

封印を解く度天使疾患に襲われる少女を気遣えば、いつもの笑顔が返ってくる。大丈夫なわけは無い、解っていても自分が出来る事もない。もどかしさだけが増えるばかりだとカーノは首を振って思考を遮らせた。

そんな姿を見て、また悩んでいるのかと思ったのは最近彼と話す機会の多くなっていた男で、相手の心中を察してやれやれと肩を落としたクラトスはそこでまた自分に違和感を感じ、あぁだから深入りするなと言っているだろうと自制をかけていた。無論それが表情に出るような人間ではないので周りにはそんな葛藤など一切気付かれないのだが。

だがそれに気付かずとも彼を見ていた人物というものは存在していた。昨晩彼の意外な一面というか簡単に言えば見たことのなかった笑顔というのを思わぬ形で見てしまった少年もといジーニアスは、それについて聞こうか聞くまいかを真剣に考えたりしていた。
相手がそれを見せるまで何をしていたか、それは前を行く自分の親友の兄が一番良く知っている事だろうが、一体どんな会話をすればあんな顔を引き出す事が出来るのかと聞き出したい衝動に駈られていた。
それは単なる好奇心から来るものだったが、話の内容は彼が思うほど楽しいものではないというのは、やはり聞くまでは当事者2人以外には知り得ない事なのだった。





「これがマナの守護塔か…」

白く聳え立つ塔を見上げ、ロイドが眩しい日光を手で防ぎながら感嘆の声を上げる。
同じく塔を見上げていたカーノは、記憶に残る姿よりも少し寂れたそれに月日の経過を感じていた。

「ここに次の封印があるんだよな。」

「ああ。」

「そっか…」

今までなら意気込んで真っ先に突っ込んで行っていた少年は、今日は元気の無い顔でとぼとぼと皆の後をついて行く。
疲れているわけでも無いだろう、やはり昨日何かあったのかと聞こうとして止める。
どうせ返ってくるのは虚勢だけだ、いつか相手が話してくれるのを待つしかない。


(…ああ、クラトスもこんな気持ちなのかな。)


知りたくても相手は何も教えてはくれない、だから自分で調べるしかない。探るような質問を繰り返す男に今の自分を重ねて、彼は少し申し訳なくなった。


(あれ、…でも違うか?)


自分はロイドを心配して知りたがっているが、クラトスはただ疑っているだけか。何をそんなに警戒しているのかは知らないが、あの男は心配などするような人間ではない気がする。
だからと言って冷たいだけの人間では無いことも共に過ごしてきた日々の中で十分に解っていたのだが、質問の内容はそれとはまた違うなと彼は思った。


(…ん?何か話が…)


ズレてるか?とそこまで考えて結局最初何を考えていたのかを忘れてしまったカーノは、塔の仕掛けを解く事に専念した。




数多の仕掛けを解き進み屋外にある祭壇で無事に守護者を倒すと、レミエルが降臨し神託を告げた。

「救いの塔を目指せ!
そこで再生の祈りを捧げるのだ!」

どうやら此所が最後の封印だったらしい。コレットの苦労も漸く終わるのかと一行は少し明るさを取り戻すが、クラトスやリフィルは眉間に皺を浮かべたままだった。

もしかしてまだ何かあるのかと先の事について考えてみる。あとは塔に行って祈れば旅は終わり…だと聞いていたが、違うのだろうか。それともその祈りに何か問題でもあるのだろうか。

そう言えば前にリフィルさんに旅が終わればコレットちゃんは帰ってこれるのかと聞いて、その返事をまだ受け取っていなかったなと帰路を辿る最中聞こうとしたのだが、もし本当に軟禁されてしまうとかで帰ってこれないのだとしたら、ロイドやジーニアスの前でその話はまずいかと別の機会に先伸ばした。

(でも…戻って来れないってのはなぁ…)

弟達と楽しそうに笑う少女と世界の再生を天秤にかけるという事なら旅の最中誰しもしたことのある事で、答えの出ないそれについては深く考えない、つまり黙認するしかないのだと了承してはいた。何せそれを口に出してクラトスに怒られたばかりだ、彼とて厳しく言っていても多少は良心が傷んでいるのだろう。

だが理屈では解っていても、やはり納得出来ないのが人の心というものではないだろうか。旅の完遂が差し迫った今、残り少ない時間で何をすべきかを考えた。世界も少女も助けられる方法をとは言わないが、せめて負担を少しでも軽くは出来ないだろうか。

(……いっそ、代わってやれたらなぁ…)

そんな事は出来ない、でももし出来るのなら、あんな幼い少女ではなく自分が…

(…いや、これこそ偽善かな。)

どうせ代われないと解っていながら、こんな事を考えるのは偽善かと自嘲する。結局出来ることなど限られているのだから、それをするしかないのだろう。
自分の無力さに歯痒さを感じて、足元の小石を蹴った。




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