家族のカタチ

□9.終らぬ輪廻
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「…なんかまた随分と、豪勢な家だな…。」

綺麗に磨きあげられた床、重みのあるカーテン、あちこちに置かれた花瓶と座れば深々と沈むソファー。

そのうちの1つにもたれることなく背筋を伸ばし、緊張しながらも横を見る。視線の先で建物は倒壊し、まるで吹き抜けのようになってしまっていた。
それはつい先刻自分達が暴走したレアバードごと突っ込んできてしまったところで、身は無事だったとはいえ流石にこの有り様は「良かった」と言うには少し足らなかった。

これ、もし弁償とかになったらどうしようか。見た目から額を想像して青くなる。今の自分の稼ぎといえば魔物を倒して手に入るぐらいのものだし、それすらも旅の費用にあてているのだから貯金など無いに等しい。

もし請求されたら一生ここで働くしかないか…まさか旅の結末がこんな事になるとは…。項垂れたカーノと裏腹にリラックスモードなロイドは物珍しそうにあちこち物色している。金目のものはゴロゴロしてるが盗みはするなよ、そんなことする奴じゃないだろうけど。

「あ、しいな!」

一通り見回って隣に座ろうとしたロイドが中腰で停止する。かろうじて形を保っていた玄関から入ってきたのは元々敵同士だった筈の少女だった。

「なんだいカーノ、顔色が悪いね。
…もしかしてさっき怪我してたのかい?」

「いやいや、大丈夫。
俺の身体には傷ひとつないよ…」

ハハハと乾いた笑いを溢す相手に首をかしげるしいなに、ロイドが話はついたのかと聞く。

墜落後、しいなは騒ぎが落ち着くとすぐにゼロスという青年と共に王宮へと向かった。それは彼女が任せられていた任務、つまりコレットの暗殺に失敗したという報告と、これから先コレットを元に戻すために手を貸して欲しいと頼む為だった。
大事にならないかと不安もあったが、この異世界では陛下の許可が無ければ動けないのが実情で、暗殺のターゲットであった自分達では王宮に入ることもままならないので、悪いとは思いながらもしいなに頼ることにした。

どうやら話は上手く纏まったらしく、しいなも処罰はされなかったらしい。一先ずは胸を撫で下ろしたが、問題はまだ残っていた。

「…しいなちゃん、あのさ、この家って…さっきのゼロスって子の家だったりする?」

「そうだけど?」

やっぱり、ということは彼は貴族か何かだろうか。もしもかなり位の高い人物なのだとしたら、かすり傷とはいえ怪我をさせてしまった事についても慰謝料を要求されたりするかもしれない。さっきから頭の中に金のことしか浮かばない自分が嫌になるが仕方がない、気になるものは気になるのだ。

(…なにせ、今責任取るべき最年長って言ったら俺だしな……。)

この間までは、自分より歳上の男が1人居たのだけれど。頼もしい後ろ姿を思い出してまた暗くなる。たった数週間一緒に居ただけなのに、どうしてここまで気になるのか。

駄目だ駄目だと男の姿を思考の隅へと押しやり蓋をする。次にもし会うことがあれば敵だ、半端な気持ちでは仲間を傷付けてしまうかもしれない。

「…あれ、そういやあいつは?」

しっかりしないとなと気合いを入れ直したカーノの横で、ロイドがゼロスの姿が無いことに気付く。
なにやらまだ陛下と話があるらしく、宮殿に残ったらしい。後から来るはずだと話したしいなに、ロイドは素朴な疑問を投げ掛けた。

「なあ、ヘイカって王さまのことだろ。」

「へ?
…ああ…そうだけど。」

「あのゼロスってやつ、王さまと会えるしこんなデカイ家に住んでるし、偉い奴なのか?」

それは俺も気になると顔を上げたカーノを含む皆の視線の中で、しいなは片眉を下げて腕を組み言いよどむ。

「偉い…、まァ一応そういうことになるのかねぇ。

ゼロスはテセアラの神子なんだよ。」

「「神子ォ!?」」

見事に声を揃えて驚きを表現する一同に、しいなもその反応は妥当だと言わんばかりに口を閉ざす。シルヴァラントで暮らしてきた自分達にとって神子というのはコレットのようなイメージであり、間違ってもあんな…失礼だが不真面目さが滲み出ている青年と神子という役職は到底結び付かない。

すると噂をすればといった風に、話題に上がっていた人物がやはり軽い調子で部屋に入ってきた。

「よーォシルヴァラント諸君!ごきげんいかが〜?」

気の抜ける声と茶目っ気たっぷりの笑みでやってきた相手はやはり神子には見えない。人は見かけによらないと言うのはこのことか。

「自己紹介がまだだったな。
テセアラの麗しき神子ゼロスくんです、よろしく〜」

「アホ神子…陛下とはもう話は終わったのかい?」

「ああ、グランテセアラブリッジの通行許可も貰って来たぜ。
これでガオラキアの森へ行ける。」

素行はふざけていてもやる事はやってくれるらしい。と、その傍らに見慣れない少女が居ることに気付いたジーニアスが目を見開く。

「だっ、誰その子ォ!?」

年齢的にはジーニアスと同じぐらいだろうか、桃色の長い髪を両耳の上で結んでいる。
いつも冷静なジーニアスの突然の変化にカーノ達は少し後退したが、普段のジーニアスを知らないゼロスは普通に少女の紹介を始める。

「道案内のプレセアちゃん。
ガオラキアの森っつったら有名な迷いの森なんで道案内が必要なのよ。」

「プ…プププレセア…」

わなわなと身を震わせるジーニアスに皆が大丈夫かと心配になるが、顔を見てああ成る程と納得する。
つまりこれはあれだ、一目惚れか。頬を赤らめて幸せそうに顔の筋肉を和らげるジーニアスのその表情は、よくよく恋愛絡みのいざこざに巻き込まれるカーノが今までに見たことのある類いのものだった。

確かに可愛いよなとプレセアをもう一度見る。まあ自分は流石に歳が離れているので恋に落ちるということはないのだが。
ただ1つ気になるのは、先程からずっと無表情を保ち続けているところだった。




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