へた リア短文
□早暁
1ページ/1ページ
星が瞬いている。
どこまでが荒野で、どこから空なのか。
深い闇には何も見えない。何か在るのだろうか。
このまま進めばどこかへ辿り着けるのだろうか。彼の所へいけるのだろうか。
乾いた草原に風がさっと吹いた。見渡す限り背の高い草しかないその大地は、柔らかな光沢を発しながら大きく波打った。
たまにはこうやして平原でゆっくり過ごすのも悪くない。
乗ってきた車に背中を預けて、青年が一人、心の中でそう呟いた。
晴れ渡った空をそのまま映したような瞳が、そっと和らぐ。
いつも誰かと渡り合ったり、上司に気を使ったり…そう、よく空気を読まないや、周りを気にしなすぎる等といわれているが、そう見えなくていなくてもそれなりに気を使っているし、ストレスだって相当モノだろう。…モノだと思える。
それもそうだろう。周りは歴史ある国ばかりだ。
その中で若い青年が超大国として居続けるには、多少のマスクも必要だろう。
明るく、パワフルで、突っ走る自分。確かにそれは青年の性格でもあるが、いつもではない。
しかし、他の強国に隙を見せたくなかった。その為に虚勢を張るときだってある。あえて独走することだってある。
若さを弱点ではなく、逆に武器として使う。どうあがいても追いつかない歴史や経験に負けたくなかった。
いつも誰にも気付かれる事なく気を張りつめる。そんな中でマスクを脱げるのは誰もいないと確信した時だけだった。
誰もいない目の前の平原は、青年にしばしの休息を与えてくれた。
そう言えば、いつからこのだだっ広い土地が休息の地になったのかな?
小さい頃は、どこまでも続いているこの土地が嫌いだった筈だったのに。
ふっとそんな事を思った。
そう、小さい頃はこの広大な国に飲み込まれそうで怖かったから、帰ろうとする彼の袖を掴んでは引き止めようとしていた。
幼かった自分を思い出して、青年は軽く苦笑した。
あれほど慕っていた彼をライバルと見ていたのはいつからだったか。
あれから追いつき、追い越したつもりなのに、何故か時々未だ彼の背中しか見えていない感じがする。
自分の方が大きいし、力もあるのに、この敗北感。
「でも、俺は負けている訳じゃないぞ。いつか君の歴史とやらにも勝る国になってみせるさ」
他人には決して見せない、小さいがその堅く熱い青年の、アルフレッドの声音は、乾いた風にのって散り散りに流れて、じきに消えていった
星が消えていく。
漆黒の闇に色がしみ込んでくる。地平線が見えてくる。
未だ果ては見えないが、先は見えた。
この先に、彼はいる。