へた リア短文
□冬に咲く花
1ページ/2ページ
「寒い!」
そりゃそうだ。雪降っているもんな。
「さっきから木以外何も見えないぞ!」
ちびなおまえの目線からは何も見えないだろうな。
「こっちで本当に合っているのかよ!?」
「うるさい」
『ぼふ』って音と共にその声は消えた。
奴の顔に、盛大に雪玉をぶつけてやったからだ。
最も、静かだったのは一瞬だけだったが。
「何すんだよ!」
顔を真っ赤にして、一層騒がしい声を上げてくる。
とてつもなくうるさい。
あーあ、こいつを連れて来たのが間違いだった。
珍しい色をしたヒースがブリテン島にあると聞いた。
それについてこいつ、アーサーに聞いてみたが、奴にも初耳だったらしい。そして自分も行くと言い出しやがった。こういう時は付いてくるんだよな。調子のいい奴だ。
いつもは顔を合わせれば突っかかってくるのに、そのくせ一人に放っておくと心細そうな顔をする。まるでこっちが苛めているみたいに。
本当に面倒くさい奴だ。
ちびだから駄目だと言って追い払おうとしたが全く聞かない。
あ、ほら、早々に雪に埋もれたよ。
だから言ったのに。お前にはまだ無理だって。
なのにムキになりやがって。
忠告したのに、付いて来たこいつが悪い。
もう放っておこう。
「おい!こら!まてよ!助けろよ!」
聞こえないフリ、聞こえないフリ。
ブゴ!
何か落ちる音がして、そして静かになった。
「………」
そっと振り返ると…誰もいない。
「…あれ?」
慌てて戻ると、雪の中から小さな手が生えていた。
どうやら、枝に積もっていた雪が奴の頭に落ちたらしい。
はぁ、と溜め息をついて掘り返してやる。
あーあ、思いっきり泣きそうでやんの。
「ほら、助けてやったんだ。礼は?」
「………」
必死に口一文字に結んでいる。
抵抗して言わないでいるのかと思ったら、どうやら泣くのを堪えているので懸命らしい。本気で怖かったんだな。
はぁ。
また溜め息をつく。しゃーないな。
「ほら、行くぞ」
アーサーの前に手を伸ばしてやる。
一瞬キョトンとしてからムッとした表情で俯いたが、手を握りしめてきた。
結局こうなるんだよな。
奴の手を握り締めながら進む。
ったく、片手で雪を掻き分けるのも大変なんだぞ。
と、目の端に色が映った。
銀世界の中に“色”があった。
「あ!あれか!?」
あれから黙りだったアーサーが高い声を出して見上げてきた。
あの泣きそうな面はどこへ行ったのやら。
今は目をキラキラさせているじゃないか。
俺の返事も聞かずに色に向かって駆け出してく奴の後を追う。