へた リア短文

□冬に咲く花
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「寒い!」
 そりゃそうだ。雪降っているもんな。
「さっきから木以外何も見えないぞ!」
 ちびなおまえの目線からは何も見えないだろうな。
「こっちで本当に合っているのかよ!?」
「うるさい」
『ぼふ』って音と共にその声は消えた。
 奴の顔に、盛大に雪玉をぶつけてやったからだ。
 最も、静かだったのは一瞬だけだったが。
「何すんだよ!」
 顔を真っ赤にして、一層騒がしい声を上げてくる。
 とてつもなくうるさい。
 あーあ、こいつを連れて来たのが間違いだった。

 珍しい色をしたヒースがブリテン島にあると聞いた。
 それについてこいつ、アーサーに聞いてみたが、奴にも初耳だったらしい。そして自分も行くと言い出しやがった。こういう時は付いてくるんだよな。調子のいい奴だ。
 いつもは顔を合わせれば突っかかってくるのに、そのくせ一人に放っておくと心細そうな顔をする。まるでこっちが苛めているみたいに。
 本当に面倒くさい奴だ。
 ちびだから駄目だと言って追い払おうとしたが全く聞かない。
 あ、ほら、早々に雪に埋もれたよ。
 だから言ったのに。お前にはまだ無理だって。
 なのにムキになりやがって。
 忠告したのに、付いて来たこいつが悪い。
 もう放っておこう。
「おい!こら!まてよ!助けろよ!」
 聞こえないフリ、聞こえないフリ。
 ブゴ!
 何か落ちる音がして、そして静かになった。
「………」
 そっと振り返ると…誰もいない。
「…あれ?」
 慌てて戻ると、雪の中から小さな手が生えていた。
 どうやら、枝に積もっていた雪が奴の頭に落ちたらしい。
 はぁ、と溜め息をついて掘り返してやる。
 あーあ、思いっきり泣きそうでやんの。
「ほら、助けてやったんだ。礼は?」
「………」
 必死に口一文字に結んでいる。
 抵抗して言わないでいるのかと思ったら、どうやら泣くのを堪えているので懸命らしい。本気で怖かったんだな。
 はぁ。
 また溜め息をつく。しゃーないな。
「ほら、行くぞ」
 アーサーの前に手を伸ばしてやる。
 一瞬キョトンとしてからムッとした表情で俯いたが、手を握りしめてきた。
 結局こうなるんだよな。
 奴の手を握り締めながら進む。
 ったく、片手で雪を掻き分けるのも大変なんだぞ。
 と、目の端に色が映った。
 銀世界の中に“色”があった。
「あ!あれか!?」
 あれから黙りだったアーサーが高い声を出して見上げてきた。
 あの泣きそうな面はどこへ行ったのやら。
 今は目をキラキラさせているじゃないか。
 俺の返事も聞かずに色に向かって駆け出してく奴の後を追う。
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