へた リア短文
□攻防
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豊かな土地が欲しかった。
広大な土地が欲しかった。
目の前にある土地を欲しがって何が悪い。
手が届く所にある土地を欲しがって何が悪い。
俺たちだって―――。
そこは無防備な教会だった。
「獲物、めっけだ」
大きな瞳がスッと細くなる。と同時に口元がにやりと笑い、まだ成熟していない身体を大きく揺する。楽しくて仕方ない、そう全身で言っているかのようだ。
『あんこの奴、本当さ楽しんだの』
その傍らに冷静に見守る同じ年くらいの少年。
『のぁ、分はんでのぐもねがの』※まぁ、分からないでもないがな
きゅっと長斧を握り直す。小さな手には無骨すぎるくらいシンプルな斧だ。
『こいがらショータイムだ』
この少年もまた、フッと笑みを浮かべた。
そう、新たな幕開けを告げるショータイム。しかしそれは、色とりどりの紙吹雪の代わりに紅い血肉が飛び散り、歓声の代わりに阿鼻叫喚が飛び交った。
逃げ惑う人々。それを追いかける人々。殺られる者と殺る者が入り乱れる。そこには慈悲も救いもなかった。
「神よ!お助けください!」
そんな修道僧ら心からの叫びは神に届くことはなかった。
793年 ヴァイキング、リンディスファーン修道院襲撃。
この事件はイングランド中を震撼させた。
その後も打ち寄せる波の様にデーン人は襲ってくるようになった。イングランド人もこれに応戦はするが、デーン人の戦闘意欲や技術は、好戦的民族であったイングランド人さえも遥かに凌駕するもので、常に苦戦を強いられていた。
「こうづら弱いなぁ。もうぢっと手応えがほしいな?なぁ、ノル?」
少し拗ねたように口を尖らせた少年が同意を求める。
「…まぁ、俺らが強いのだはんでの、仕方ねだべ」
周囲を見渡しながら答えたノルと呼ばれた少年の目は落ち着いていた。その目に映る風景がどんなに残酷でも動揺すらなかった。
「しっかし、こごは広いな!これだけあれば、いくらだって麦がつくれんな!」
「んだの、こさ住まなぐば豊かの暮きやしができらの…」
俺らの国と比べてここはなんて…。
そう二人の少年、ノルとデンの国を思い比べ、思わず唇を噛む。
なんでこんなに違うのだろう?
コツン。
二人に向かって何かが飛んできた。
コツン。
どうやら小石らしきものを投げつけられているらしい。
「で…出てけよ!」
小石と一緒にそんな震えた言葉も飛んできた。
「あ?なんだって!?」