へた リア短文

□願い
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 あれ?あれ?あれれ?
 今のって…目が合っちゃったりしなかった?
 久しぶりの事過ぎて気が動転してしまっていた。
 気のせいかな?でも、確かに、あの人、私が見えていたよね?
 再び柱の影からそっと覗き見る。いつもと違う事に家鳴りも気付いたらしく、梁から梁へ走り回っていたりして、妙にざわついている。
「こんにちは」
 試しに小さな声で挨拶をしてみる。
「え?」
 お客さんはぱっと振り向いた。
 私の声も届いている!
 一体どれくらいぶりだろう?自分に反応してくれる人は。嬉しさのあまり、声を出して走り回ってしまう。
 この人遊んでくれるかな?ちょっと恐そうだから駄目かな?でもお兄ちゃんの友人ならいい人かな?
 近寄るにはまだ恐いので、遠巻きに家鳴りと様子を見つつ話し合う。
「アーサーさん、どうかしましたか?」
 お客さんにお兄ちゃんが話しかけた。どうやらお客さんの名前はアーサーというらしい。
「いや、さっきから子供がウロチョロと…」
 そう言ってこちらを見てきた。
 やっぱ、この人、私たちが見えている!
 ずっと一人で淋しかった。誰にも話しかけられなくて、見てもらえなくて、気付いてもらえなくて淋しかった。自分もそろそろ消えてしまうのか?そう思っていたから、アーサーに気付いてもらえたのは本当に嬉しかった。
 アーサーは、心配そうな表情のお兄ちゃんの勧めでお風呂へ行ってしまった。
 お風呂へは流石に付いていけなく、奥の間で家鳴りとはしゃぎながら出てくるのを待っている事にした。
 何して遊んでもらおうか?でもなんか、こっちのこと何にも知らないっぽいから教えてあげないと駄目かも…。そんなことを考えていると、はしゃぎ過ぎて疲れてしまったのか、アーサーが上がってくる前に寝入ってしまった。

『トントン』
 誰かが障子を叩いている。
 アーサーが起き上がり、誰かと話をしている気配がする。座敷童は目を擦りながら部屋を覗く。
 河童のおじちゃんだった。
 どうやら別れの挨拶をしているようだった。そう言えばこの前、そろそろ山へ引き蘢るって河童のおじちゃんは言っていたっけ。また一人、友人が去っていくのだ。昔よく遊んでもらったのを思い出し、淋しくなった。
「おじちゃん、またね」
 自分も別れの挨拶をしに出る。おじちゃんは自分にも微笑みながら会釈を返してくれた。見えなくなるまで手を降り続けた。
『いつか私も去るのかなぁ』
 そう思いながら。
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