SS・文

□消えない光
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 声の主に顔を向ける。そこには傘を差した青年が向かってきているところだった。
 学生のような顔立ちだが、高卒で入社して6年目の24歳。カナの方が遅くに入社したから年下でもシノハラの方が先輩だった。
「この程度だったら、傘、いらないですよ」
「でも雪が…」
 少し首を傾げながらコートに付いている雪を指してくる。
 あぁ、と言いつつぱらっと払う。払われた雪は周囲の雪に混じって地面に落ちた。
「ほら、濡れてない」
「周りは差していますよ」
「でも濡れてないし、面倒だし」
「相変わらずですね」
 どちらが年上かわからない会話をしつつ、一緒に駅へ向かう。
 いつの間にかシノハラはカナにも傘が掛かるように持ち直している。
 こういう心遣いは流石だ、と改めて思う。シノハラはさり気ない気配りが当然のようにできる希少な青年だ。
『爪の垢でも煎じて飲ませたいよ』
 二人の上司がカナに向かってよくぼやいている。少々腹立つが、カナ自身も思うところがあるので何も言えない。
 駅まで約10分。取り留めのない、しかしどこか浮き足立つ話を楽しむ。その後各々反対方向へ向かう電車に乗り込む。
 それがいつもの風景だった。
 しかし
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