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□【忍たま潜入記録】 任務その4…『虹色たまご』
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長次
「…そして、桃の実はイザナギ神からオオカムヅミという名を賜る…。
 …これはイザナギ神が桃に神格を与え、以降、邪気を払う役目を与えた事を意味する…」

仙蔵
「一方、追手を差し向けたイザナミ神はこの物語以降、黄泉の国の女神となり黄泉津大神とも呼ばれる様になる。
 『鬼ヶ島にて〜』に出てくるイザナミ神も、黄泉醜女を手下として呼び出す事から黄泉津大神となった後の姿であると言える。
 どうだ、この物語にはずいぶんと興味深い背景があると思わないか?」

文次郎
「…とどのつまり、この天女傍観物語の発端は、史上最大の夫婦喧嘩にあると」

仙蔵
「…………」

長次
「…文次郎、その言い方は実も蓋もない…」

仙蔵
「…こほん。
 実も蓋もないが、そういう事だな。
 文次郎が感じた様に、かの『天海桃太郎』なる人物のあり方は、大いなる父神から賜った使命が根底にあったのだと窺える。
 もっとも、当人やその子孫達がその事を認識していたかは解らないが」

文次郎
「『己の使命を全うせよ』という信念が揺らぐ事を許さない楔…いや、枷なのかもしれねぇな。
 それが、あの天海一族にあったという事か」

長次
「…それが、徐々に暴走する…他の信念を認められず、独り善がりの道を進んでしまう…。
 …正義は一つでは無い…その事を解り合えれば、物語の結果はまた違っていたのかもしれない…」

文次郎
「あぁ、ぶっちゃけて言えば、正義ってのは己にとって利となる事に結びつくからな。
 私利私欲を抜きにしても、価値観や倫理観などいろんな要素で変わってくる。
 人の数だけ正義のあり方も様々だろう」

【事実は一つだけど、真実は一つじゃない。どの真実をとるのかは、君が自分で考えて選んで。そして、それを信じた自分を、最後まで信じ抜いて】

長次
「…と、『幻遊斎咲良の白昼夢』でも、とある人物が言っていた…」

仙蔵
「正に『鬼ヶ島にて鳥が啼く』のテーマそのものだと感じる。
 この物語は、多角的に見た桃太郎伝説であるという事だな」

長次
「…そして、多角的に見た天女傍観である…と、思う…」

文次郎
「天女?
 あぁ、『天海桃太郎』の子孫という奴か」

仙蔵
「…これは失言になってしまうだろうが、その子孫…『天海桃花』という娘に関しては納得がいかない。
 確かにかの者は横柄で思慮が浅く自己中心的な考え方しかできず、おまけに毒舌家で無自覚に他の者を見下し、周りを不快にさせてばかりであったが―」

文次郎
「仙蔵、正直すぎだ。
 失言にも程があるぞ」

仙蔵
「いや、これは失言ではないだろう。
 作中のかの者のあり方を正しく述べているだけだ。
 作者である幻遊斎様も、その様に評価される天女として『天海桃花』というキャラクターを書いていらっしゃる。
 だから、ここからが失言に当たるのだ。
 いくら天女といえども、あんなにも酷い目に遭うというのは理不尽ではないだろうか?」

長次
「…それは、彼女が一族の犯した罪を全て被った事によると…」

仙蔵
「ん?」

【貴女は妖怪退治と称してあちこちの神域に立ち入り、汚し、その上気に入らない人々は妖怪憑きと呼んで排除してきました。貴女だけではありません。天海桃太郎をはじめ、天海家の人々は代々人や妖怪を苦しめてきたのです】

長次
「…最後に出てきたイザナミ神の言葉…」

文次郎
「一族の罪を全て被る…なるほど、これはある意味『祟り』だった訳か。
 天海一族に神域を犯された神々全ての…」

長次
「…………」(こくん)

仙蔵
「『末代まで祟る』という言葉があるが、この場合、子孫の一人が全ての罪を償う役目を負ったという事か…」

文次郎
「役目を負うというより、神々の怒りを鎮めるための人柱に近い気がするな。
 実際に神域を犯す人間は、あの天海一族だけじゃなかったはずだ」

長次
「…………。(こくこく)
 …その罪の内容も、重要だと思う…」

仙蔵
「ふむ…挙げられているのは『神域を汚す』『無実の人間を悪と貶めて排除する』の二つだが、これらがどうかしたのか?」

長次
「…これらは、桃太郎伝説にまつわるもう一つの影の面を示している…」

文次郎
「むっ?」

長次
「…二人は、キビツヒコ神の話を知っているだろうか…?」

文次郎
「いや、俺はそこまで古事記や日本書紀には詳しくねぇからな」

仙蔵
「私は一応、知ってはいる。
 大和朝廷が日本の統一を進めていた時代に、吉備の国に現れた温羅という鬼を退治した英雄だな。
 その話が後の桃太郎伝説の元になったという事だが」

長次
「…………。(こくん)
 …その物語は英雄譚として語られてはいるが、裏には時の権力者による『まつろわぬ者達への迫害』がある…」

仙蔵
「まつろわぬ者達か…確かに、神話における英雄譚は侵略の歴史を表しているとも取れるからな。
 キビツヒコ神の話で言えば、退治される温羅という鬼は大和朝廷に従わなかった部族の長であったという事か」

文次郎
「都合が悪い存在を『鬼』と貶めて退治するってのは、中世まで普通にあったらしいからな。
 魔物退治で有名な源頼光やその部下達の活躍も、朝廷に従わない地方豪族を打ち取った事を示しているんだろうぜ。
 酒呑童子の話も詳しく読めばどっちが鬼か解りゃしねぇ。
 土蜘蛛って妖怪も、そもそもは反抗的な地方豪族…その『まつろわぬ者達』ってのを示す隠語だったらしいな」

仙蔵
「…文次郎、お前はこういう話には詳しいな」

長次
「…二人の言う様に、鬼退治とは『無実の人間を悪と貶めて排除する』事であったとも受け取れる…。
 …そして、鬼の宝は排除された民の技術や土地の支配権を表す…」

文次郎
「なるほど、それで『桃太郎は宝を手に入れた』となる訳か」



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