*サクラ花火*
□始まりの終わり
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ー…ホー…ホー…
『きれい…。』
どっと押し寄せた疲れに眠ってしまっていた桜は、時計もない部屋から月の明かりだけを頼りに部屋から出て来ていた。
木の影から漏れる月の光は現代のそれよりも遥かに綺麗で、桜は思わず引き寄せられるように外を歩いていた。
―…ガタッ…
『!!』
「よ、記憶喪失さん。」
月明かりの下、そこに居たのは縁側で一人三味線を弾く一だった。
一の姿を見つけた桜は戸惑うように顔を俯けた。
「相手して欲しくなったか?」
『いえ、違います。』
「何だつまんねーな。」
そう言うと一はニッと笑った。
『……。』
「んなとこつっ立ってないで座れよ。」
桜は少し戸惑いながらも、言われるがまま一の隣に腰を下ろした。
だが一に今ひとつ気を許せていなかった桜は、一と少し距離をあけ月を見上げた。
「記憶喪失なんだってな?総助が真っ青になって医学書漁ってた。」
『…でも名前も過去の自分も覚えてますし…違うと思いますよ。』
「はは、そーかよ。」
そう言うと、桜は少し寂しそうな顔で俯いた。
『…どうせなら…本当に全部忘れてしまえたらよかったのに。』
桜の言葉に、一は三味線を弾くのを止め桜に尋ねた。
「お前、名前は?」
『え…?桜…藤堂桜です…。』
「桜か…一瞬だけでも忘れさせてやろうか、全部。」
『え…?』
驚く桜をよそに、一は桜を引き寄せキスをした。
『×◎※■◇!?!』
一瞬の出来事に頭が真っ白になった桜は、目の前の一をただ呆然と見つめていた。
「忘れられたろ。」
ケタケタと笑う一を見て我にかえった桜は、慌てて一から離れた。
生々しく残る唇の感触に桜が一層顔を赤くすると、一は飄々といつもどおりの様子で言葉を続けた。
「嫌なことは覚えといてもいいことねーぞ。」
『……。』
そう言って一は少し笑うと、三味線をかかえ部屋へと戻っていった。
(キ…キス…された……。)
突然の出来事にバクバクと音をたてる心臓と頭が着いていかないまま
この不思議な世界での初めての夜は、あっという間に過ぎていった。
【第一話】 始まりの終わり -END-